王太子から婚約破棄されたおてんば公爵令嬢は魔王に溺愛される
①
コーデリアはエインズワースの領地にある別邸を訪れていた。夏の暑さをしのぐため、ウィドリントン王国都市部から一時的に逃れてきたのである。社交界シーズンが本格的になる秋ごろには父と母のいる王都に戻る予定だが、いまは優雅にこの涼しさを楽しみたい。宰相の父は王都を離れられず、母はそれに帯同した形であった。一人娘なので兄弟姉妹はいない。
「コーデリアさま、お茶が入りました」
侍女のエミリーが茶と菓子の載った盆を手に庭先に出てくる。
東屋で休憩を取っていたコーデリアは青色の瞳を細めてそれを迎えた。
「ありがとう。ところで午後は森へ出かけたいのだけれど……」
「も、森ですか!?」
エミリーのそばかすの浮かぶ悲痛な顔に、コーデリアは申しわけなくなる。しかし屋敷の中は退屈で、ひとりになれたからこそ思いきり羽を伸ばしたいと思っていたのだ。
「お願いだから執事たちには内緒にして? フェルナンデスと一緒に行くから大丈夫よ」
フェルナンデスとはコーデリアの白毛の愛馬だ。コーデリアは自身の持つ公爵令嬢という身分にふさわしくなく、おてんばで勝ち気な十八歳だった。乗馬は得意である。
「ダ、ダ、ダメですよ~! お嬢さま! お父上から目を離さないよう申しつかっているんです!」
当たり前のようにエミリーは止めるも、コーデリアは両手を合わせてお願いというポーズを崩さない。金髪の巻き毛が、なまぬるい風にさらわれてふわりと揺れた。
「そ、それに、アドルフ王太子殿下が心配されます! もしコーデリアさまに何かあったら……っ」
すでに蒼白のエミリーに、しかしコーデリアも譲らない。
「私がおてんばで勝ち気だということなら、アドルフ殿下もとっくにご存知よ。それでも私を婚約者に選んだのだから、何があっても婚約破棄されることなんかないわ」
「そういう意味だけでは――」
「お茶とお菓子、持っていくわね。ありがとう、エミリー」
半ば無理やりにさっさと出かける準備をしてしまうコーデリアに、やがてエミリーは諦めの吐息をついて支度を手伝ったのであった。
「コーデリアさま、お茶が入りました」
侍女のエミリーが茶と菓子の載った盆を手に庭先に出てくる。
東屋で休憩を取っていたコーデリアは青色の瞳を細めてそれを迎えた。
「ありがとう。ところで午後は森へ出かけたいのだけれど……」
「も、森ですか!?」
エミリーのそばかすの浮かぶ悲痛な顔に、コーデリアは申しわけなくなる。しかし屋敷の中は退屈で、ひとりになれたからこそ思いきり羽を伸ばしたいと思っていたのだ。
「お願いだから執事たちには内緒にして? フェルナンデスと一緒に行くから大丈夫よ」
フェルナンデスとはコーデリアの白毛の愛馬だ。コーデリアは自身の持つ公爵令嬢という身分にふさわしくなく、おてんばで勝ち気な十八歳だった。乗馬は得意である。
「ダ、ダ、ダメですよ~! お嬢さま! お父上から目を離さないよう申しつかっているんです!」
当たり前のようにエミリーは止めるも、コーデリアは両手を合わせてお願いというポーズを崩さない。金髪の巻き毛が、なまぬるい風にさらわれてふわりと揺れた。
「そ、それに、アドルフ王太子殿下が心配されます! もしコーデリアさまに何かあったら……っ」
すでに蒼白のエミリーに、しかしコーデリアも譲らない。
「私がおてんばで勝ち気だということなら、アドルフ殿下もとっくにご存知よ。それでも私を婚約者に選んだのだから、何があっても婚約破棄されることなんかないわ」
「そういう意味だけでは――」
「お茶とお菓子、持っていくわね。ありがとう、エミリー」
半ば無理やりにさっさと出かける準備をしてしまうコーデリアに、やがてエミリーは諦めの吐息をついて支度を手伝ったのであった。