王太子から婚約破棄されたおてんば公爵令嬢は魔王に溺愛される
⑤
城からの帰り道、コーデリアの乗った馬車が突然、途中で停まった。小窓から御者に何事か尋ねようとしたところで、馬車の前に誰かが立ち塞がっていることに気づいた。
「エミリー、私ちょっと見てくるわ」
「ええ!? おやめください! 浮浪者や不審者だったらどうするんですか!?」
向かいに座っていた侍女のエミリーは金切り声を上げるも、そんなことで行動を制限できるコーデリアではない。コーデリアはエミリーの言葉を無視して馬車を降りた。
すると馬車を塞いでいたのは、ひとりの青年だとわかる。まっすぐな長い黒髪に紫色の瞳、端正な顔立ちは酷く甘い。背は見上げるほど高く、体格はがっちりしており、貴族然とした服に赤いマントを羽織ったさまは、まさに完璧と言ってもいいぐらいの男性の理想的な姿だった。
「あなたは……」
思わず青年に魅入っていたコーデリアを見つけると、くだんの青年は破顔する。その笑顔がまたまぶしい。
「コーデリア! 迎えにきた」
「な、なんで私の名前――」
(それに迎えにきたって……このひと、いやこの方はもしかして……!?)
彼はその通りとばかりにうなずき、コーデリアの前で片膝をついた。
「我が名はエリオット・ガターリッジ。魔族を束ねる王でもある」
「あ、あなたがっ……」
コーデリアは驚き半分、うれしさ半分で言葉に詰まってしまう。なぜうれしかったのかと言えば、美貌の貴公子だけあってエリオットはとても美しい男性だったからだ。コーデリアの好みのタイプでもあった。
顔を赤くして口を金魚のようにパクパクするだけのコーデリアに、エリオットはくすくすと笑いコーデリアの左手を取った。
「俺と結婚してほしい。コーデリア」
そしてその左手の手のひらの上に、見たこともないほど豪奢な指輪が載せられる。
「あ、あのっ……これ……っ」
いまだ戸惑うコーデリアに、エリオットは微笑んだ。その顔もまた美しい。
「誓いの指輪だ。贈られた側の女性がこれを身につけたとき、婚約は成立する」
「そ、それが魔族の婚約の仕方ですの?」
するとエリオットがにこやかにうなずいた。
なぜかドキドキと高鳴る心臓を押さえながら、コーデリアは思案する。
(これを受け取ってしまったらダメよ……! いくら美貌の貴公子とはいえ、魔王の花嫁なんて冗談じゃないわ! 顔は、そう顔だけはタイプだけども!)
ぐらりと傾ぎそうな心に鞭打って、コーデリアは首を横に振った。
「申しわけございません、私は指輪ではなく“自由”がほしいのです」
それは抽象的な言い方だったが、極めて現実的なコーデリアの願いの根源だった。
エリオットはぱちぱちと目を瞬かせ、しばらく考え込んでから立ち上がる。
「では一緒においで? 君に自由を見せてやろう」
「え? わわっ!?」
気づけばエリオットによって横抱きにされ、目線の高くなったコーデリアは慌てた。
瞬間、うしろからエミリーの悲鳴が上がった。
「きゃああ! お嬢さまをお放しください!」
面倒臭そうに振り返ったエリオットだったが、エミリーには何も言わずにスタスタと歩き出してしまう。どうやらコーデリア以外には口を利く気もないようだ。
コーデリアは慌てて言葉を継いだ。
「エミリー! 心配ないわ! すぐに戻るから、お屋敷に帰っていてちょうだい!」
「で、で、でもっ」
涙目で抗議しようとするエミリーだったが、それは叶わない。なぜならエリオットがコーデリアを抱いたまま、その場から消えてしまったからだ。
「エミリー、私ちょっと見てくるわ」
「ええ!? おやめください! 浮浪者や不審者だったらどうするんですか!?」
向かいに座っていた侍女のエミリーは金切り声を上げるも、そんなことで行動を制限できるコーデリアではない。コーデリアはエミリーの言葉を無視して馬車を降りた。
すると馬車を塞いでいたのは、ひとりの青年だとわかる。まっすぐな長い黒髪に紫色の瞳、端正な顔立ちは酷く甘い。背は見上げるほど高く、体格はがっちりしており、貴族然とした服に赤いマントを羽織ったさまは、まさに完璧と言ってもいいぐらいの男性の理想的な姿だった。
「あなたは……」
思わず青年に魅入っていたコーデリアを見つけると、くだんの青年は破顔する。その笑顔がまたまぶしい。
「コーデリア! 迎えにきた」
「な、なんで私の名前――」
(それに迎えにきたって……このひと、いやこの方はもしかして……!?)
彼はその通りとばかりにうなずき、コーデリアの前で片膝をついた。
「我が名はエリオット・ガターリッジ。魔族を束ねる王でもある」
「あ、あなたがっ……」
コーデリアは驚き半分、うれしさ半分で言葉に詰まってしまう。なぜうれしかったのかと言えば、美貌の貴公子だけあってエリオットはとても美しい男性だったからだ。コーデリアの好みのタイプでもあった。
顔を赤くして口を金魚のようにパクパクするだけのコーデリアに、エリオットはくすくすと笑いコーデリアの左手を取った。
「俺と結婚してほしい。コーデリア」
そしてその左手の手のひらの上に、見たこともないほど豪奢な指輪が載せられる。
「あ、あのっ……これ……っ」
いまだ戸惑うコーデリアに、エリオットは微笑んだ。その顔もまた美しい。
「誓いの指輪だ。贈られた側の女性がこれを身につけたとき、婚約は成立する」
「そ、それが魔族の婚約の仕方ですの?」
するとエリオットがにこやかにうなずいた。
なぜかドキドキと高鳴る心臓を押さえながら、コーデリアは思案する。
(これを受け取ってしまったらダメよ……! いくら美貌の貴公子とはいえ、魔王の花嫁なんて冗談じゃないわ! 顔は、そう顔だけはタイプだけども!)
ぐらりと傾ぎそうな心に鞭打って、コーデリアは首を横に振った。
「申しわけございません、私は指輪ではなく“自由”がほしいのです」
それは抽象的な言い方だったが、極めて現実的なコーデリアの願いの根源だった。
エリオットはぱちぱちと目を瞬かせ、しばらく考え込んでから立ち上がる。
「では一緒においで? 君に自由を見せてやろう」
「え? わわっ!?」
気づけばエリオットによって横抱きにされ、目線の高くなったコーデリアは慌てた。
瞬間、うしろからエミリーの悲鳴が上がった。
「きゃああ! お嬢さまをお放しください!」
面倒臭そうに振り返ったエリオットだったが、エミリーには何も言わずにスタスタと歩き出してしまう。どうやらコーデリア以外には口を利く気もないようだ。
コーデリアは慌てて言葉を継いだ。
「エミリー! 心配ないわ! すぐに戻るから、お屋敷に帰っていてちょうだい!」
「で、で、でもっ」
涙目で抗議しようとするエミリーだったが、それは叶わない。なぜならエリオットがコーデリアを抱いたまま、その場から消えてしまったからだ。