ヤンキーを名乗る三人は、トップになりたい!

トップコンテスト

 「全校生徒のみなさん、ついにトップコンテストがやってきました! トップコンテストとは、トップを決める大会であります。今年のエントリーは十名だ! 盛り上がろうぜー!」

 「いぇぇぇい!!」

 ついに、待ちに待ったトップコンテスト本番の日がやってきた。
 全校生徒が勢ぞろいしていて、三年生だけでなく一年生や二年生の不良たちが集まっているから耳を塞ぎたくなるくらい声援が大きい。
 私は三人と舞台裏で待機している。

 「蒼空がトップバッターだよね?」

 「うん」

 「頑張ってね。応援してるから!」

 約一ヶ月しかサポートしてあげられなかったけど。
 自分のことを大事に思う蒼空が、私は友達として好き。だから頑張ってほしいな、と思う。
 蒼空は紫のヘッドフォンを取って、一歩私に近づいた。

 「……応援してくれてるの?」

 「うん、もちろん」

 「じゃあ、俺が勝ったら……好きになって」

 頬を赤く染めながらそう言う蒼空。
 え? ……好きになってって、どういうこと!?
 蒼空はくるりと背を向けて、ステージへ素早く移動してしまった。

 「こんにちは、白柳蒼空です。俺は……自分が、嫌いだった」

 蒼空が強く冷たい言葉を放った瞬間、盛り上がっていた観客全員がしーんと静まり返る。

 「でも大切な仲間や、大好きな人に出会えてから変わった。少しずつ自分を好きになれたんだ。だから俺はトップになって、自分が自分を嫌いな子が、少しでも自分を好きになれるようなことをしたいと思っています」

 蒼空は、自分と同じような境遇の子を助けたいという願いを持っていた。
 すごく……素敵な心を持っている。

 「蒼空って、ああ見えて結構かっこいいよねー」

 「か、かなでっ!」

 そっか。かなでの出番は蒼空の次だから、二番目なんだ。
 かなでの甘くそそられる声が私の耳に響く。

 「ねぇ、由薇ちゃん。僕、トップになって母さんを支えたいって言ったじゃん?」

 「う、うん」

 「今は、母さんと同じくらい、由薇ちゃんのことを大切に思ってる。だから僕、トップになれたら由薇ちゃんの願いも叶えるよ。一番大切な女の子だからね」

 かなでがニッ、と歯を見せて明るく笑う。
 ……私が、一番大切な女の子!?
 蒼空だけでなくかなでまで、いったいどうしちゃったのーー?

 「どうか応援よろしくお願い致します」

 「白柳ってクールな感じだけど、結構いいじゃん」

 「だよな」

 蒼空の演説が終わって、会場に拍手が広がった。
 かなでがステージへ立ち、マイクを持つ。

 「みんな、こんにちはー! 三年B組の赤塚かなででーす」

 蒼空とは違うテンションのかなでは、多分皆からも人気が出ると思う。
 思っていた通り、あちこちから笑い声が聞こえた。

 「僕は母子家庭なので、母さんを支えたいと思っています」

 「えっ」

 「赤塚さんって、母子家庭なの?」

 会場がざわざわと騒ぎ立てる。

 「そのための練習として、この学園全員を支えることができるトップになりたいです。そしてーー大切に思っている子の願いを、叶えたい」

 かなでの目線と、私の目がピタッと合う。
 その大切に思っている子って、もしかしてだけど、私のことなの……?
 つまり蒼空もかなでも私のことが好き、って解釈で合ってる……!?

 「どうか応援よろしくお願いします!」

 「赤塚さんって可愛いだけのイメージあったけど、お母さんを支えたいって結構いい人なんだね」

 「ね、見直したかもー」

 かなでの演説が終わると、生徒のみんなが笑顔になっていた。
 かなでの持っているそのパワーってすごいなぁ。

 「……ゆ、由薇」

 「え? く、黒崎俊っ」

 突然声を掛けられて私はびっくりする。だって好きって自覚したら、何だか本人と話すだけでもドキドキしちゃうんだもん……!
 そんなことを考えながら黒崎俊の顔を見ると、なぜだか少し青白かった。

 「み、水ないか?」

 「ねぇ、どうしたの? 顔青いよ」

 「緊張で、腹が……」

 なるほど。緊張でお腹が痛いのか。
 私も緊張するとお腹が痛くなってしまうときはときどきあるから、気持ちが分かる。
 私はあたたかいホットティーが入ったペットボトルを渡した。

 「これ、飲んでいいよ。今朝コンビニで買っただけだから」

 「サンキュー」

 黒崎俊でも緊張するんだなぁ、と思うと少し距離が縮まった気がして、嬉しくなる。

 「悪い、こんなカッコ悪いところ見せて」

 「ううん、誰にでもあるもん」

 「……あのさ、由薇」

 黒崎俊は真剣な瞳で、私のことを見つめる。

 「ちょっとお前と二人で話したいんだけど、いい?」

 そう言われて、胸の鼓動が速くなっている中、私は頷いていた。
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