ヤンキーを名乗る三人は、トップになりたい!

白柳蒼空

 「天野」

 「あっ、白柳蒼空!」

 「蒼空でいい」

 「そ、そっか。蒼空……ね」

 名前だけだと、どうも呼びにくいんだよなぁ。
 転校して一週間経ち、学園にも慣れてきた。環境委員に入った私は花の手入れをしていると、蒼空が話しかけてきた。

 「今日は黒崎俊と赤塚かなでは一緒じゃないの?」

 「うん。別にいつも一緒にいるわけじゃない」

 確かにそれもそうか。
 蒼空は棒のついた飴玉を無表情で舐めている。やっぱり蒼空って、どこかミステリアス……。

 「今日も音楽聴いてるの?」
 
 「うん」

 「何の音楽?」

 「クラシック」

 いつも紫のヘッドフォンをしていて髪もホワイトに染めているが、あまり目立たない。
 蒼空はクールだけれど、ヤンキーみたいな感じではないし、喧嘩もしたことが少ないらしいから。

 「これ、たんぽぽ?」

 「ううん、コスモスだよ」

 「……天野は花に詳しいんだね」

 「そうかな。少し好きなだけだよ」

 だけど、蒼空といるとすごく落ち着く。
 蒼空は何も言わずに、コスモスをじっと見ていた。
 真っ直ぐな瞳、色白な肌、可愛らしい顔立ち。やっぱり、蒼空ってーー。

 「綺麗」

 「え?」

 「あっ、えっと! そ、蒼空って綺麗だなぁって思って。顔とか肌とか。“女の子みたい”でさ」

 そう言うと、蒼空は突然立ち上がり、背を向いてしまった。

 「……それ、やめて」

 「へ?」

 「そうやって言われても、全く嬉しくないから」

 ……私、何か言っちゃったかな。自分的には、蒼空を褒めたつもりなんだけど。
 褒められるのが好きじゃない、とか? そんな人この世にいるのだろうか。

 「ごめん、流石に冷たく言い過ぎた。俺、昔から女みたいで可愛いって言われてて、女に間違われることも多かった。髪も長いし」

 「あ……!」

 「俺は漢として強くなりたい。もっと、もっと。だから……トップコンテストで、トップになりたいんだ」

 私、何てことを言ってしまったのだろう。
 蒼空は女の子に間違われるのが、きっとコンプレックスだったんだ。でも私はそれを知らなくて、女の子みたいって言っちゃった……!
 急いで頭をぺこっと下げる。

 「ごめんなさい、私知らなくて、容姿のこと言っちゃって」

 「いや、だから」

 「ごめんね、蒼空。でも蒼空のトップになりたい理由が聞けて、嬉しかった。私、サポートするから!」

 蒼空が今度は、顔を赤くした。

 「顔赤いよ? 熱でもあるの?」

 「……っ、違う。何でもない、から。あんたって結構、鈍いよね」

 そう言って走り去ってしまった。でも、許してくれたってことで、いいのかな?
 もう人の容姿について、思ったことを簡単に言うのはやめようと思った。
 蒼空は意外と繊細で、ミステリアスで、でも優しくて。蒼空のことをもっと知りたいと思った。
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