ヤンキーを名乗る三人は、トップになりたい!

赤塚かなで

 杏ちゃんと一緒に登校してきて、廊下を歩いているとき。

 「お前のせいだ!!」

 教室から、突然男子の大きな声が聞こえてきた。
 何事かと思い、私と杏ちゃんは廊下を走って教室まで行く。
 見てみると、赤塚かなでがクラスメイトの男子に一発殴られていた。

 「ど、どうしたの?」

 「赤塚にまたチクられたんだ。俺たちが夜遅くにゲームセンターにいたこと。それで今日から一週間停学処分にされた」

 また……?
 はっ、と思い出した。転校初日、赤塚かなでと喧嘩していたのを。あのときはタバコをやっていたのを報告されたって言っていた。
 夜遅くに高校生がゲームセンターにいるなんて、非常識だ。
 それを赤塚かなでが先生に言っただけなのに、どうして殴られなければならないの……?
 きっと赤塚かなでのことだから、優しく注意して笑い話になるんだろうなと思った。だけど。

 「……けんな」

 「え? なんてーー」

 「ふざけんなって言ってんだよ!!」

 教室中に、赤塚かなでの強い怒鳴り声が鳴り響く。
 私たちは一斉に、しーんと静まり返った。

 「お前はそれでいいと思ってるのか? 人に迷惑掛けたまま社会に出て、後悔するのはお前自身なんだよ!! タバコとか、酒とか、そういうことをやってる人たちが本当に友達なのか? もっと周りを見ろよ!!」

 うそ。これ、本当に赤塚かなで?
 別人のように声を荒げていて、言われた男子も声が出ないほど呆気にとられている。
 赤塚かなでは教室を出ていこうとしたので、サポートとして私も後から着いていった。

 「あ、赤塚かなでっ」

 「……由薇ちゃん! ていうか、かなでって呼んでよ。おはよう、どうしたの?」

 えっ。いつもの、赤塚……かなでなんですけど。
 さっきのかなでは怖かったな。怒るとあんなふうに怒鳴るんだ。
 にっこりとした満面の笑みが、今となっては恐怖……。

 「ねぇ、さっきの“もっと周りを見ろ”って言葉。あれ、かなで自身のこと?」

 「……何の話?」

 「私の前では嘘吐かなくていいよ。かなでは、どうしてトップになりたいの?」

 かなでは、広い広い空を見上げながら話し始めた。

 「僕は……母子家庭なんだ」

 「えっ」

 「僕が小学五年生のときに離婚してる。でも僕は父さんを止めることができなかった。あのとき力ずくでも父さんを引き止めれば、今母さんを苦しめずに済んだのかなって後悔した」

 あまりにも重い内容だったから、びっくりする。
 かなでの一つ一つの言葉が、そのまま胸に響く。

 「だから、母さんを守れるくらいの力が欲しい。そのためには練習として、トップになって、支えるくらいの力を手に入れたいんだ」

 泣きそうになっているかなでにどういう言葉をかけたらいいのか、悩む。

 「私……は、そのままのかなででいいと思うよ」

 「そのままの、僕?」

 「うん、力がなくたって、言葉があるじゃん。言葉でも……お母さんを支えることはできる。私はそのままの優しいかなでだから、いいと思ったよ」

 「由薇、ちゃん」

 こんな私でも、お母さんとお父さんがいて、普通で幸せな家庭を築けているんだから!
 だからかなでにも、幸せになってほしいな。
 この気持ちが少しでも伝わったらいいなぁと思う。

 「ありがとう。やっぱ僕、由薇ちゃんが……」

 「ごめん、聞こえなかった。何て言った?」

 「ううん、トップになったら、改めて言うよ」

 いつもの笑顔で、かなでが笑う。もう、そう言われると余計気になるんだけど。
 でも、かなでにはその笑顔が一番似合ってるよ……!
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