エンドロールを巻き戻せ
 次の日は土曜日だったので、私は一日中廃人のように、ベッドで一日を過ごした。
起き上がる気もせず、かといってベッドにいても眠る事も出来ず、ひたすら流れてくる涙を拭いては、落ち着き、また感情の波が来ると、涙が溢れ出すのを繰り返していた。

 日曜日は、高校時代からの友達、菅原(すがわら) 香奈(かな)と遊ぶ約束していたが、とてもじゃないけど、外に出られる顔じゃなかったので断ってしまった。
 そうして、私はまた土曜日のようにベッドに潜りこんで、感情に任せて泣いていたが、いきなり玄関のチャイムの音がなった。
 居留守でも使おうかと思ったが、まんがいち、一彩かもしれないと思って、私はなんとかベッドから這い上がり、インターホンに出る。

 もちろん期待は裏切られて、訪問してきたのは香奈だった。
香奈は、私の様子がおかしいのを心配して来てくれたようだった。
 
 香奈は高校からの同級生で、今は外資系のメーカーで働いている。

「何!?振られた!?」

 私が誕生日の出来事を話すと、香奈は目を大きくして驚く。元から目鼻立ちのはっきりした美人の香奈が、そんな顔をすると迫力がある。

「一彩他に好きな人が出来たんだって。同じ会社の人らしい。」

 話していたら、また涙が溢れてくる。

「何!?同じ会社って、どこのどいつよ!それで昨日からあんたはその有り様なの!?」

 この有り様である。

「一彩がまさかねぇ、、、。瑞稀にベタ惚れだったのに、てっきり二人は付き合いも長いし、結婚までいくもんだと思ってたよ。静岡海翔高校の夢はこれでちったわね。高校時代から付き合ってたの、瑞稀と一彩だけだったよね。」

「私だって、そう思ってたよ!だけど、一彩は違ったんだよ。9年付き合った私じゃなくて、会社の同僚を選んだんだよ。私じゃだめだったんだよ!」

 私が泣きながら、盛大に鼻を噛んでいると、香奈が呆れた顔で私を見てくる。

「ほらっ!いつまでも泣いてないで、瑞稀なんか食べてるの?病人じゃないんだからちゃんと食べなきゃだめだよ。ウーバー頼もう!何にする?最近おすすめの、スープ専門店があるんだよ。確かウーバーもやってたはず。」

 と瑞稀が言ってくるが、私は食欲が全然わかない。
私の身体の中の食べる機能が完全にOFFになってしまっているようだった。
そして、泣きスイッチのみ、常時ONになっている。
 そんな私を見て、香奈はため息をつきながら私に言ってくる。

「瑞稀、失恋1回でそんな弱っててどうするの?
っていうか、、、瑞稀初めてなんだ、失恋。」

「そうだよ。私ちゃんと付き合ったの一彩だけだし、振られたのも一彩が初めてだもん。」

 思い返せばこの9年間で、一彩は私にどれだけの"初めて"をプレゼントしてくれたんだろう。
最後の初めては、私にとって本当に余計なプレゼントだった。
< 11 / 20 >

この作品をシェア

pagetop