エンドロールを巻き戻せ
 代官山の駅について、私は一彩を待つ。
待ち合わせは、十九時なので、まだ時間は早い。
私は楽しみ過ぎて一人わくわくしながら、駅前で待つ。会社終わりの通勤の人、友達同士で遊びに来ている人々で混雑していた。
 一彩は会社が終わり次第に、代官山に向かうと言っていた。
私に特異能力があるとしたら、何処からでも一彩を見つける事だと思う。

 高校時代、窓際の席になった時、校庭にいるどんなに小さな一彩でも私はすぐに見つける事ができた。
 私にとって、一彩はまわりと違ってぴかぴかに光って見えたのだ。
 だから例え、どんな人ごみの中でも、私はいとも簡単に一彩を見つけだす事ができる。

 そんな事を思っていると、一彩が駅から出てくる。私は今日も一彩の姿をすぐに見つけて、手を振る。

 「瑞稀。ごめん、待った?」
一彩が少し駆け足で私の方へ来る。
会社帰りだからスーツだけど、いつもより少しおしゃれなスーツを着ていた。

「うんん。待ってないよ。」

「瑞稀、いつも俺を見つけるの早すぎる。しかも、かなり遠くから手を振るからなんか恥ずかしいんだよな。」

「なんで?恥ずかしくないでしょ?見つけたら早く手を振りたくなるじゃん!ここだよって!」

私がそう言うと、一彩が私の手を取る。
私達は、いつもの様に手を繋いで歩きだす。
当たり前の事だけど、一彩が私の手を取るだけで今だにどきどきして嬉しくなる。

「瑞稀どう?今日の俺の格好、変じゃない?決まってる?」

 そう言って、一彩がわざと変なポーズをする。

「うん!完璧!いつものスーツの百倍は格好良いよ。いつの間にそんなスーツ買ったんだ。」

「今日の為にわざわざ新調したんだよ。代官山のおしゃれなレストランだから、気合いいれなきゃと思ってさ。」

 今日、行くレストランは、私が昔から雑誌で見て憧れていたレストランだ。

「予約とるの大変だったんじゃない?」

 私が少し申し訳なさそうに言うと、一彩が笑いながら言う。

「もう、めちゃくちゃ大変だったよ。半年前の朝9時から電話して、予約とってさ。俺わざわざその日、半休とったから!」

初めて聞いた話しで私は驚いた。

「そうだったの!?ごめん!全然知らなかった!」

「いいんだよ、そんくらい。瑞稀さんが喜んでくれたら、俺の半休くらいどうって事ないの。」

「ありがとう」

 私は嬉しくて、つい一彩に抱きつく。
こんなに幸せな誕生日があるだろうか。
私の幸せは、全て一彩で決まると言っていいくらいだ。
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