呪われた村娘は王子様から溺愛されて死を選ぶ
ロズリーヌが見舞いに来てからフィルはクラルテの元へ二、三日に一度の頻度で問診のために通っている。クラルテも話し相手が増えて会うのを楽しみにしている。
二人は何度か会って話していることもあり、フィルが赤ん坊のような柔和な顔立ちをしている事もあってクラルテは警戒心なく何でも話せてしまう。二人は気の置けない友人のような関係になっている。
また今日も庭のガゼボでクラルテとフィルが問診をしながら楽しそうにお茶をしている。今日はおとぎ話の話題になった。
「僕が泊まっている宿で幼い女の子が母親におとぎ話を話してほしいとねだっていたのを見かけたんだよね。クラルテちゃんはどんなおとぎ話が好き?」
「動物が出てくるお話が好きよ。動物が音楽を楽しんでいるのとか」
クラルテは動物が好きで故郷の村では一人で林へ行って動物たちを眺めていた。
「そうなんだ。クラルテちゃんは動物が好きなんだね。僕はてっきりお姫様が出てくる話かと思ったよ」
「動物好きよ。お姫様が出てくる話も好きだけどね」
幼少期のクラルテは王子様と結婚するという結末が羨ましく思っていた。しかし今は自分がそうなっている。
「おとぎ話に出てくる女性は幸せな結末よね。幼い頃に羨ましく思っていたわ。東洋のおとぎ話もそういう結末が多いの?」
「どうかな。僕はおとぎ話には詳しくなくてね。クラルテちゃんが言う幸せな結末が多いのは女性は誰かに愛されたいと思う人が多いんじゃないかな」
「愛されたい……。確かにそうかも」
故郷の村では幸せに暮らしていたが、父が亡くなって一人きりになって寂しさを覚えた。何故かは分からないが、今は婚約しているベランジェに嫌われている。クラルテはベランジェから嫌われていても、まだ気持ちが変わらず愛されたいと思っている。
「クラルテちゃんは愛されたいの最上級の溺愛だもんね。僕が泊まっている街でも話題だよ。女性達が羨ましがっていたよ」
「溺愛……」
クラルテは俯き呟く。ベランジェとの思い出を振り返る。どれも楽しく幸せな思い出だ。しかし今現在はーー。溺愛とは程遠い今を思うと悲しく寂しさがこみ上げてくる。
「どうやったら溺愛できるんだろうね。僕にも教えてほしいな。クラルテちゃんみたいな素敵な人と出会ったからかな」
今現在ベランジェに真逆なことをされているクラルテは何と答えたらよいか分からない。
「クラルテちゃんは今幸せ?」
フィルに尋ねられ、クラルテは俯いたまま目を見開く。息が詰まった。クラルテは何も答えることができない。
「幸せに決まってるよね! 王子様と婚約したんだもんね」
フィルは紅茶を音を立てて飲む。フィルはおとぎ話に出てくる女性たちとクラルテを同じと思っているのだろう。
クラルテは王子様と婚約したが、幸せかと問われて答えられなかった。おとぎ話の女性たちは幸せになったはずだ。現実はおとぎ話のようにはいかないのか。寂しさがこみ上げてくる。
「クラルテちゃんは動物が好きと言ってたね。どんな動物が好きなの?」
「えっと、わたしはーー」
話題が変わり、クラルテは落ち込んでいるのを気づかれたくなくて慌てて顔を上げて答える。
***
その日の夜。昼間、フィルと一緒にいる時に胸の痛みがしんどくなったが、何とか耐えて寝込まずにいられた。
変わらず胸の痛みはあるが、弱い痛みで済んでいる。以前は弱い痛みでもベッドで横になっていた。今は痛みを我慢できるようになり、屋敷で静かに過ごす程度のことはできるようになった。クラルテは行動できることが嬉しくなり、勉強をしたり庭で散歩などをして過ごしている。
フィルと会ってから胸の激しい痛みがなく落ち着き、クラルテの笑顔が増えていった。問診というのが効いているのだろうか。
クラルテは自室で椅子に座って勉強をしていると、マノンが部屋へ入ってきた。手には新聞のようなものを持っている。
「失礼します。クラルテ様、お勉強ですか? 最近お身体の調子が良いみたいですね」
クラルテが連日起きていられる事が多くなり、マノンも嬉しく思う。
「ええ、このまま良くなってくれるといいんだけど」
フィルと話していると心が穏やかになっているような気がする。このまま問診を受けていれば良くなるかもしれないと淡く期待する。
「昨日ベランジェ王子様へお茶をお出しした時に執務室でクラルテ様が恋人の日に贈ったギフトボックスを見かけましたよ。ベランジェ様はクラルテ様からの贈り物を大切にしてらっしゃるのですね」
マノンはニコニコと嬉しそうにクラルテに伝える。
(え? 今なんて言ったの?)
クラルテは驚いて聞き返す。
「それってわたしが贈ったギフトボックスだった?」
手渡してすぐにくずかごへ捨てられたはずだ。
「そうです! あたしもチョコ作るお手伝いしたじゃないですか。ちゃんと覚えてますよ!」
どうして捨てたはずのものを持っているのだろう。
(わたしは嫌われているんじゃないの?)
クラルテはベランジェの心が分からず、心がもやもやしていく。
「ベランジェ様は執務がお忙しいからあまりお会いできませんが、クラルテ様のこと大切に思っているのですね」
「そうかな……」
クラルテが自信なく呟くと「そうですよ!」とマノンの明るい声が返ってくる。
マノンはここに来た理由と手に持っている物を思い出す。
「忘れるところでした! クラルテ様、王室広報紙です」
マノンはクラルテに一面を見せる。プロポーズされている時の写真が大きく掲載されている。
「お写真素敵ですよね。うっとりしましたぁ~」
紙面を受け取り、一面を見ると婚約パーティーの写真と記事が載っている。クラルテは現在とのギャップで見るのが辛くなり、紙面をテーブルの上に置く。
「次は結婚式ですよね。あたし、今から楽しみです~!」
マノンは嬉しそうにはしゃぐが、クラルテは辛そうに胸を押さえる。
「広報紙を持ってきてくれてありがとう。もう休むから下がってくれる?」
「かしこまりました。ゆっくりお休みください」
マノンは挨拶をして部屋を出た。昼間の痛みが影響しているのか、症状が辛くなってきた。クラルテは勉強を切り上げて休むことにする。
寝間着に着替えてベッドに横になる。紙面も気になるが、なぜベランジェは捨てたはずのギフトボックスを持っていたのだろう。あの日からベランジェには会っていない。直接本人に聞くことはできず、その勇気もない。
クラルテはベッドの中でもやもやと考えているとプロポーズとギフトボックスの事が混ざった夢を見た。嫌な印象を受けなかったが、夢の中のベランジェが何を言いたかったのかよく分からなかった。
***
マノンからギフトボックスの事を聞いて二日経った。フィルがクラルテへ会いにやってきた。今日も庭のガゼボで問診をしながら二人で楽しくお茶をしている。
クラルテはお茶を飲みながら美味しそうにお菓子を食べているフィルを見つめる。フィルならギフトボックスについて何か答えてくれるかもしれない。クラルテはフィルにギフトボックスの話を始める。
「フィルさん、一つ聞いてもいいかな? フィルさんは捨てたものを持ってるってどう思う?」
「えっと、話が見えないよ。最初から話してくれるかな」
いきなり結論を求める聞き方をしてしまった。クラルテは謝り、始めから話す。
「ごめんなさい。わたしがベランジェへ恋人の日にギフトボックスに入れたチョコレートを贈ったの。それをわたしの目の前で捨てたはずなのに、なぜか彼は今でも持っているみたいなの。なんでかな?」
「恋人の日にキミが渡したの?」
一瞬フィルの視線が鋭くなったが、クラルテは気づいていない。
クラルテが「わたしが渡したよ」と答えると、フィルが「どうして渡したの?」とさらに質問をする。なぜ問い詰められなければならないのか疑問だが、クラルテは素直に答えた。
「ベランジェと恋人の日を一緒に過ごしたかったから。……一緒には過ごせなかったけど」
クラルテは声を小さくして付け加える。フィルの表情が消えていたが、またいつもの柔和な顔に戻る。
「そっか、そうだったんだね。クラルテちゃん、キミって本当に純粋なんだね。キミが悲しい思いをしていると僕も辛く悲しくなるよ」
フィルはクラルテの手を優しく両手で包む。
「そんな悲しい思いをしてまで一緒にいる意味あるのかな?」
「…………」
クラルテは何も答えられない。
「ごめん、結婚を決めた人に言う言葉ではなかったね」
フィルは手を離して申し訳なさそうに眉尻を下げる。
「変な雰囲気になっちゃったね。この前に話していたクラルテちゃんの好きな動物の話を聞きたいな」
フィルは手を離し、慌てて話題を変える。クラルテは明るく話し出すが、フィルから言われた言葉が胸に引っかかっている。
フィルが帰宅した後、クラルテは自室へ戻ってベッドの上に座ってベランジェと出会った時のことを思い出していた。
出会った時のキラキラと輝いていた感覚。プロポーズしてくれた時の胸の高鳴り。二人で結婚式を挙げる教会を見に行った時の幸せ。婚約パーティーでの高揚感。
今は幸せな思い出を思い出すたび、胸が締め付けられて痛い。
「一緒にいる意味……」
何も話さない、顔も合わさない、冷たい態度を取られる。フィルに問われた言葉が頭の中で反芻する。
マノンが言っていたギフトボックスのこと思い出す。どうしてベランジェは捨てたはずのギフトボックスを持っていたのだろう。もし彼女が嘘をついていたとしても嘘をつく理由が分からない。
「ベランジェはわたしの事をどう思っているの?」
ベランジェの心が分からず胸の痛みに耐え、苦しそうに呼吸をしながらベランジェの事を考えた。
二人は何度か会って話していることもあり、フィルが赤ん坊のような柔和な顔立ちをしている事もあってクラルテは警戒心なく何でも話せてしまう。二人は気の置けない友人のような関係になっている。
また今日も庭のガゼボでクラルテとフィルが問診をしながら楽しそうにお茶をしている。今日はおとぎ話の話題になった。
「僕が泊まっている宿で幼い女の子が母親におとぎ話を話してほしいとねだっていたのを見かけたんだよね。クラルテちゃんはどんなおとぎ話が好き?」
「動物が出てくるお話が好きよ。動物が音楽を楽しんでいるのとか」
クラルテは動物が好きで故郷の村では一人で林へ行って動物たちを眺めていた。
「そうなんだ。クラルテちゃんは動物が好きなんだね。僕はてっきりお姫様が出てくる話かと思ったよ」
「動物好きよ。お姫様が出てくる話も好きだけどね」
幼少期のクラルテは王子様と結婚するという結末が羨ましく思っていた。しかし今は自分がそうなっている。
「おとぎ話に出てくる女性は幸せな結末よね。幼い頃に羨ましく思っていたわ。東洋のおとぎ話もそういう結末が多いの?」
「どうかな。僕はおとぎ話には詳しくなくてね。クラルテちゃんが言う幸せな結末が多いのは女性は誰かに愛されたいと思う人が多いんじゃないかな」
「愛されたい……。確かにそうかも」
故郷の村では幸せに暮らしていたが、父が亡くなって一人きりになって寂しさを覚えた。何故かは分からないが、今は婚約しているベランジェに嫌われている。クラルテはベランジェから嫌われていても、まだ気持ちが変わらず愛されたいと思っている。
「クラルテちゃんは愛されたいの最上級の溺愛だもんね。僕が泊まっている街でも話題だよ。女性達が羨ましがっていたよ」
「溺愛……」
クラルテは俯き呟く。ベランジェとの思い出を振り返る。どれも楽しく幸せな思い出だ。しかし今現在はーー。溺愛とは程遠い今を思うと悲しく寂しさがこみ上げてくる。
「どうやったら溺愛できるんだろうね。僕にも教えてほしいな。クラルテちゃんみたいな素敵な人と出会ったからかな」
今現在ベランジェに真逆なことをされているクラルテは何と答えたらよいか分からない。
「クラルテちゃんは今幸せ?」
フィルに尋ねられ、クラルテは俯いたまま目を見開く。息が詰まった。クラルテは何も答えることができない。
「幸せに決まってるよね! 王子様と婚約したんだもんね」
フィルは紅茶を音を立てて飲む。フィルはおとぎ話に出てくる女性たちとクラルテを同じと思っているのだろう。
クラルテは王子様と婚約したが、幸せかと問われて答えられなかった。おとぎ話の女性たちは幸せになったはずだ。現実はおとぎ話のようにはいかないのか。寂しさがこみ上げてくる。
「クラルテちゃんは動物が好きと言ってたね。どんな動物が好きなの?」
「えっと、わたしはーー」
話題が変わり、クラルテは落ち込んでいるのを気づかれたくなくて慌てて顔を上げて答える。
***
その日の夜。昼間、フィルと一緒にいる時に胸の痛みがしんどくなったが、何とか耐えて寝込まずにいられた。
変わらず胸の痛みはあるが、弱い痛みで済んでいる。以前は弱い痛みでもベッドで横になっていた。今は痛みを我慢できるようになり、屋敷で静かに過ごす程度のことはできるようになった。クラルテは行動できることが嬉しくなり、勉強をしたり庭で散歩などをして過ごしている。
フィルと会ってから胸の激しい痛みがなく落ち着き、クラルテの笑顔が増えていった。問診というのが効いているのだろうか。
クラルテは自室で椅子に座って勉強をしていると、マノンが部屋へ入ってきた。手には新聞のようなものを持っている。
「失礼します。クラルテ様、お勉強ですか? 最近お身体の調子が良いみたいですね」
クラルテが連日起きていられる事が多くなり、マノンも嬉しく思う。
「ええ、このまま良くなってくれるといいんだけど」
フィルと話していると心が穏やかになっているような気がする。このまま問診を受けていれば良くなるかもしれないと淡く期待する。
「昨日ベランジェ王子様へお茶をお出しした時に執務室でクラルテ様が恋人の日に贈ったギフトボックスを見かけましたよ。ベランジェ様はクラルテ様からの贈り物を大切にしてらっしゃるのですね」
マノンはニコニコと嬉しそうにクラルテに伝える。
(え? 今なんて言ったの?)
クラルテは驚いて聞き返す。
「それってわたしが贈ったギフトボックスだった?」
手渡してすぐにくずかごへ捨てられたはずだ。
「そうです! あたしもチョコ作るお手伝いしたじゃないですか。ちゃんと覚えてますよ!」
どうして捨てたはずのものを持っているのだろう。
(わたしは嫌われているんじゃないの?)
クラルテはベランジェの心が分からず、心がもやもやしていく。
「ベランジェ様は執務がお忙しいからあまりお会いできませんが、クラルテ様のこと大切に思っているのですね」
「そうかな……」
クラルテが自信なく呟くと「そうですよ!」とマノンの明るい声が返ってくる。
マノンはここに来た理由と手に持っている物を思い出す。
「忘れるところでした! クラルテ様、王室広報紙です」
マノンはクラルテに一面を見せる。プロポーズされている時の写真が大きく掲載されている。
「お写真素敵ですよね。うっとりしましたぁ~」
紙面を受け取り、一面を見ると婚約パーティーの写真と記事が載っている。クラルテは現在とのギャップで見るのが辛くなり、紙面をテーブルの上に置く。
「次は結婚式ですよね。あたし、今から楽しみです~!」
マノンは嬉しそうにはしゃぐが、クラルテは辛そうに胸を押さえる。
「広報紙を持ってきてくれてありがとう。もう休むから下がってくれる?」
「かしこまりました。ゆっくりお休みください」
マノンは挨拶をして部屋を出た。昼間の痛みが影響しているのか、症状が辛くなってきた。クラルテは勉強を切り上げて休むことにする。
寝間着に着替えてベッドに横になる。紙面も気になるが、なぜベランジェは捨てたはずのギフトボックスを持っていたのだろう。あの日からベランジェには会っていない。直接本人に聞くことはできず、その勇気もない。
クラルテはベッドの中でもやもやと考えているとプロポーズとギフトボックスの事が混ざった夢を見た。嫌な印象を受けなかったが、夢の中のベランジェが何を言いたかったのかよく分からなかった。
***
マノンからギフトボックスの事を聞いて二日経った。フィルがクラルテへ会いにやってきた。今日も庭のガゼボで問診をしながら二人で楽しくお茶をしている。
クラルテはお茶を飲みながら美味しそうにお菓子を食べているフィルを見つめる。フィルならギフトボックスについて何か答えてくれるかもしれない。クラルテはフィルにギフトボックスの話を始める。
「フィルさん、一つ聞いてもいいかな? フィルさんは捨てたものを持ってるってどう思う?」
「えっと、話が見えないよ。最初から話してくれるかな」
いきなり結論を求める聞き方をしてしまった。クラルテは謝り、始めから話す。
「ごめんなさい。わたしがベランジェへ恋人の日にギフトボックスに入れたチョコレートを贈ったの。それをわたしの目の前で捨てたはずなのに、なぜか彼は今でも持っているみたいなの。なんでかな?」
「恋人の日にキミが渡したの?」
一瞬フィルの視線が鋭くなったが、クラルテは気づいていない。
クラルテが「わたしが渡したよ」と答えると、フィルが「どうして渡したの?」とさらに質問をする。なぜ問い詰められなければならないのか疑問だが、クラルテは素直に答えた。
「ベランジェと恋人の日を一緒に過ごしたかったから。……一緒には過ごせなかったけど」
クラルテは声を小さくして付け加える。フィルの表情が消えていたが、またいつもの柔和な顔に戻る。
「そっか、そうだったんだね。クラルテちゃん、キミって本当に純粋なんだね。キミが悲しい思いをしていると僕も辛く悲しくなるよ」
フィルはクラルテの手を優しく両手で包む。
「そんな悲しい思いをしてまで一緒にいる意味あるのかな?」
「…………」
クラルテは何も答えられない。
「ごめん、結婚を決めた人に言う言葉ではなかったね」
フィルは手を離して申し訳なさそうに眉尻を下げる。
「変な雰囲気になっちゃったね。この前に話していたクラルテちゃんの好きな動物の話を聞きたいな」
フィルは手を離し、慌てて話題を変える。クラルテは明るく話し出すが、フィルから言われた言葉が胸に引っかかっている。
フィルが帰宅した後、クラルテは自室へ戻ってベッドの上に座ってベランジェと出会った時のことを思い出していた。
出会った時のキラキラと輝いていた感覚。プロポーズしてくれた時の胸の高鳴り。二人で結婚式を挙げる教会を見に行った時の幸せ。婚約パーティーでの高揚感。
今は幸せな思い出を思い出すたび、胸が締め付けられて痛い。
「一緒にいる意味……」
何も話さない、顔も合わさない、冷たい態度を取られる。フィルに問われた言葉が頭の中で反芻する。
マノンが言っていたギフトボックスのこと思い出す。どうしてベランジェは捨てたはずのギフトボックスを持っていたのだろう。もし彼女が嘘をついていたとしても嘘をつく理由が分からない。
「ベランジェはわたしの事をどう思っているの?」
ベランジェの心が分からず胸の痛みに耐え、苦しそうに呼吸をしながらベランジェの事を考えた。