呪われた村娘は王子様から溺愛されて死を選ぶ
 「ベランジェさまぁ~!!」
 ベランジェは外出先から帰ってくると屋敷の廊下から雨でびしょ濡れになったマノンが全速力で玄関にいるベランジェの元へ走ってくる。
 「どうした、騒々しい」
 ベランジェはジャケットに付いた雨を払う。
 「クラルテ様がいらっしゃいません! 屋敷内、庭の全部探しましたがどこにもいらっしゃいません! フィル様といつものお茶をしていたはずなのに、その方もいらっしゃいません。いまアルフレッドさんが外を探しに行っています。それと、これ……」
 マノンは紙切れに書かれたメモをベランジェに見せる。紙切れにはこの国ではない言語で書かれている。
 「ガゼボにありました。何ですか、この奇妙な紙……」
 マノンはザラつきベタつくような紙を渡すとベランジェは血の気が引いた真っ青な顔をする。
 「くそっ!」
 ベランジェは険しい顔で紙を握りつぶす。
 「何が書いてあるんですか?」
 「……われた」
 「え?」
 「クラルテが魔術王にさらわれた」
 「なんで、どうして!?」
 「あの東洋の医者が魔術王だったんだ。婚約パーティーの後に奴を見た姿と全然違っていた。俺はクラルテを助けに行く」
 「あんな恐ろしいところへ行くなんて……。ベランジェ様は大丈夫なんですか?」
 かつて同盟国だった滅ぼされた国。今は見る影もなく恐ろしい場所になっている。
 「クラルテを救うのに何も恐れるものはない。絶対に俺が助け出す」
 「無駄ですよ」
 クラルテを探しに行っていて雨に濡れたアルフレッドが帰ってきて二人の話しに割って入る。
 「クラルテ様を助けに行っても無駄です。ベランジェ様は倒されます」
 「なんだと?」
 ベランジェは顔をしかめる。
 「倒されない証拠と根拠はありますか? 私はベランジェ様が倒される根拠があります。歴史です。歴史を繰り返す気ですか? 記憶の隅に追いやった暗い歴史を新たに上書きして明るみに出そうというのですか?」
 ベランジェはアルフレッドの言葉に何も答えられず、顔をしかめるしかできない。
 「ベランジェ王子様はご自分が倒された後の事を王位継承者として責任を取れるのですか? ロズリーヌ様が継ぐという簡単な話ではない事は想像できますよね」
 「じゃあ、どうすればいいんですか? クラルテ様を助けに行かないのですか?」
 三人が出ている答えは同じはずだが、答えを決めかねている。
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