呪われた村娘は王子様から溺愛されて死を選ぶ
 クラルテとベランジェは自分たちが結婚式を挙げる大聖堂に立っている。
 ベランジェは正装で聖台前に立ち、隣にいる女性は白いウェディングドレスを着てベランジェの隣に立っている。クラルテは村でいつも着ていたブラウスとロングスカート姿になっている。
 ベランジェは隣の女性と結婚式を挙げている真っ最中だ。
 「王子様、どうしました? 式を続けますよ」
 神父に声をかけられ、結婚式の続きが始まる。
 ベランジェは結婚式の最中だという事に気づき、式を進めようとする。
 (なんだ、この違和感は……)
 幸せな結婚式のはずなのに違和感がある。何が違和感なのか。式場でも参列者に違和感を感じない。ベランジェはウェディングドレスを着た女性を見つめる。隣にいるのは”最愛の女性”のはずだ。
 (俺は彼女を愛してーー。彼女とは誰だ。俺は誰を愛している?)
 愛している女性の顔も姿も思い出せない。人形の素体のような女性がウェディングドレスを着て隣に立っている。
 「俺が、俺が愛しているのはーー」
 金髪で青い瞳のウェディングドレスを着た女性が人形の素体ような姿に変わっていく。
 書き換えられていく記憶の奥にいる、ベランジェが愛している女性がいる。ベランジェは記憶の中で何度も元に戻そうとするが上書きされてしまう。
 「ベランジェ、わたしはここよ!」
 クラルテはベランジェへ手を伸ばしてバージンロードを走るが、距離が縮まらない。
 「王子が愛しているのは目の前にいる女性。 最愛の女性と待ちに待った結婚式だよね。婚約パーティーであんなに嬉しそうにしてたでしょ?」
 神父がベランジェに語りかける。
 「婚約パーティー……」
 盛大な婚約パーティーを行い、その女性とダンスをして外を散歩して、それからーー。
 ベランジェはクラルテとの思い出を全て上書きされていく。
 (一緒にダンスを踊ったのは誰だ? 俺が婚約指輪を渡した人はーー)
 ベランジェが婚約指輪を渡した女性は指輪の意味を教えると嬉しそうに指輪を光らせていた。指輪の輝きなど負けてしまうほどの美しく可愛らしい笑顔の女性。
 その女性の顔を思い出したいのに人形の素体に上書きされていく。ベランジェは片手で頭をおさえ、変わっていく記憶に苦しむ。
< 21 / 27 >

この作品をシェア

pagetop