呪われた村娘は王子様から溺愛されて死を選ぶ
 「ベランジェ、お願い! 私に気づいて!」
 バージンロードを走っても一向に距離が縮まらない。クラルテは必死に叫ぶがベランジェは目の前の女性と見つめ合い、結婚式を挙げている。
 「王子は田舎娘のキミなどではなく、お姫様と結婚しようとしている。キミは夢を見ていただけだよ」
 黒い霧がクラルテの背後にまとわりつくように話しかけてくる。
 「夢?」
 「田舎娘が王子様と結婚できるわけないでしょ。あれは全部キミの夢だったんだよ。これが現実」
 「全部、夢? これが現実……」
 いま見ている光景が現実。王子様とお姫様の結婚式。当たり前の光景を受け入れてしまいそうになる。
 現実という言葉に耳を傾けるとベランジェと歩むはずだった未来が書き換えられて頭の中に流れ込んでくる。結婚式、新しい家族が増えその成長と国の繁栄。そこにクラルテはいない。ベランジェはお姫様を溺愛し、新しい家族と幸せになっている。
 クラルテは一人寂しく故郷の村へ帰ってきた。あたたかかった村の人たちは冷たくなっていた。王子様に捨てられた女性として馬鹿にされ、誰からも相手にされなくなった。
 外を歩けば噂され馬鹿にされるためクラルテは家に引きこもるようになった。食事もまともにとらず、塞ぎ込むクラルテの身体は弱っていきベッドに伏せることが多くなった。
 何もない部屋でひとり冷たいベッドに伏せっていると、むかし誰かに言われたことを思い出す。
 「愛する男に捨てられ、一人孤独に死ぬことしかできない」
 悪魔のような声が頭の中で反芻する。その通りになってしまったと涙を流すとクラルテは静かに瞳を閉じる。その瞳は二度と開くことはなかった。
 「もういや……。やめて!」
 クラルテは現実に押しつぶさそうになっている。頭を抱えて苦しそうに耐えている。
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