呪われた村娘は王子様から溺愛されて死を選ぶ

全ての真実

 晴天の真夏日。太陽の日差しは眩しく、遠慮を知らず降り注いでいる。日差しは暑いが、避暑地らしく爽やかで涼しい風が真夏の暑さを癒やしてくれる。
 クラルテとベランジェは屋敷の庭のガゼボで仲良くアフタヌーンティーをしている。マノンはそばで給仕をし、アルフレッドはクラルテにかけられた呪いの解読ができたので報告にやってきた。
 「こちらが報告書になります。あの、ベランジェ様。報告書の説明をしてもよろしいでしょうか?」
 アルフレッドは数枚の書類をベランジェの近くのテーブルの上に置く。ベランジェは「ああ」と空返事を返し、クラルテに集中している。
 「クラルテ、あーん」
 ベランジェはクラルテに彼女が作ったガトーショコラを食べさせている。濃厚なガトーショコラに生クリームを付けて何度も食べさせている。
 「おいしい!」
 クラルテは満面の笑み微笑む。照れを通り越して慣れてしまい、この二人がいる前ではイチャイチャしていても何とも思わなくなっている。
 「今度は俺にも食べさせろ」
 「ベランジェ、あーん」
 今度はベランジェがクラルテにガトーショコラを食べさせてもらっている。
 「クラルテが作るものはいつ食べても美味いな」
 クラルテの手作りガトーショコラを食べさせ合いながら微笑み合っている。その様子をマノンはニコニコと見守り、アルフレッドは呆れた表情で見ている。今日で何日目だろうか。
 話し出してもいいのだろうか、聞いてくれるのだろか。ベランジェとクラルテは仲良くお茶をして完全に二人だけの世界だ。
 「……少しは離れたらどうですか?」
 返ってくる答えは想像できたが、見るに堪えかねたアルフレッドが二人にこぼす。
 呪いが解けてから二人は毎日一緒にいる。というか、くっついて離れない領域で一緒にいる。アルフレッドは呪いの反動だとは思っているが、うざったくならないのだろうかと疑問に思う。
 「離れるわけがないだろう」
 ベランジェはクラルテの肩を抱いて引き寄せる。
 「わたしも離れたくないわ」
 嬉しそうにベランジェへ身を寄せるクラルテ。アルフレッドは何とも言えないような難しい顔をする。
 「いいじゃないですか! これが本来のお二人なんですよ」
 難しい顔をするアルフレッドにマノンが笑顔で反論する。「はあ……」とアルフレッドは諦めた声をもらしてメガネの位置を直す。
 「お二人にはかないませんね」
 アルフレッドはため息を吐くと優しい笑みをこぼす。

 アルフレッドは二人に構わず、報告書にまとめた呪いを口頭で簡単に解説していく。
 アルフレッドの報告によると魔術王レノーレジスがクラルテにかけた呪いは”ベランジェから愛されなくなり死ぬ呪い”だった。
 二人の心の距離が開いて冷たい態度をとられるなど、愛されなくなると呪いによって倦怠感や胸に刺す痛みが伴い、死に近づいていく。
 レノーレジスが言っていた”愛する者からの愛。それを苦しみに変えた”というのは、そのままの意味で苦しみに変わっただけだ。
 それをわざわざ伝えたのは愛されなくなった痛みと混同させるためだった。
 クラルテがベランジェからキスをされた時に倒れたが、翌日は寝込まずに元気にしていたのはそのためだ。
 そしてクラルテがベランジェを愛さないよう、愛する気持ちを苦しみに変えて胸を締め付ける呪いをかけていた。
 なぜその呪いをかけたのか。それは呪いを解く方法はクラルテがベランジェへ愛する気持ちを伝えることだった。
 愛する相手に冷たい態度と距離を取られているのに誰が伝えるだろうか。それをしようとしたためにクラルテはさらわれてしまった。

 「あの、一つ質問してもよろしいでしょうか?」
 マノンは手を上げると、ベランジェが「何だ」と答えると話し始める。
 「どうしてあたしには呪いの事を教えてくれなかったんですか?」
 「お前、クラルテに喋るだろ」
 「喋りますね」
 ベランジェとアルフレッドが当たり前のように答える。
 「しゃ、しゃべりませんよ……」
 マノンは否定しながら目を泳がせる。クラルテはその様子を見てニコニコと笑っている。

 朽ちた大聖堂での幻覚はレノーレジスが仕掛けた呪いによるものだった。
 呪術陣にクラルテとベランジェの呪いは書かれていたが、来るはずのないマノンとアルフレッドの呪いは書かれていなかったため二人は幻覚を見ずに済んだ。
 かつての王が倒されたこともあり、レノーレジスは恐れられていた。クラルテがさらわれた際にベランジェが兵を動かそうとしたが誰も来る者はいなかった。それだけ語られない歴史の恐怖は国全土に浸透していた。

 「そしてクラルテ様がベランジェ様への愛を叫ばれて呪いが解かれたということです」
 アルフレッドが解説を終えると、マノンは目の前でくっついている二人を見てうっとりしながらクラルテとベランジェへ伝える。
 「お二人のお互いを想う無敵の愛が呪いを打ち破ったんですね」
 「ふっ、良いこと言うじゃないか」
 ベランジェはクラルテの肩をさらに抱き寄せる。
 「うれしい」
 クラルテは嬉しそうに頬を染める。
 「終わったことなのでいいですけど。報告書には目を通してくださいね。あと、持ち帰った魔術王の呪術陣なども含まれますので取り扱いは気をつけてください」
 ベランジェはまた空返事を返し、クラルテへ集中している。
 「もうすぐこの生活もおしまいね」
 クラルテは寂しそうに呟く。呪いが解けてクラルテは元気になったので、四人は王都へ帰り元の生活に戻ることになる。四人で過ごせるのはもう僅かだ。
 「最終日はみんなでパーティーしようね!」
 「楽しみです!」
 「盛大にやろうではないか」
 「パーティーはあまり好みませんが、私も参加します」
 クラルテはパーティーの提案をすると三人は快く受けてくれた。

 クラルテとベランジェは今までを取り戻すかのように、べったり離れず毎日をいつも一緒に楽しく過ごしている。
 二人は王都へ戻るまでの一週間、二人は常に一緒に過ごした。
 一緒に食事をとり、ベランジェが執務をしている時はクラルテは執務室の中で自分の勉強をしている。午後は庭のガゼボで一緒に午後のお茶を楽しみ、夜はどちらかの部屋で一緒に眠っている。
 クラルテとベランジェはこの屋敷に来てから一番の幸せを感じている。

 ***

 王都へ帰る日の昼。薄雲が空を覆っている。直射日光はないが少し蒸し暑く感じる日だ。
 昨日は四人でパーティーをして楽しく過ごした。迎えの馬車に荷物を積んで王都へ帰る準備ができた。馬車は二台来ており、クラルテとベランジェ、マノンとアルフレッドが同じ馬車に乗る。
 四人でお互いに挨拶を済ませ、馬車に乗り込もうとした時アルフレッドがクラルテとベランジェを呼び止める。
 「これは私からお二人へーー。餞別です」
 アルフレッドはベランジェとクラルテへ封筒を手渡す。封筒の宛名書きの面に半円の魔方陣が書かれている。
 「その封筒に半円があるでしょう。それはお二人の封筒を合わせると完成します。中の便箋に書かれているのは私が書いた祈祷紙になります。お二人の幸せを願ってーー。お二人を見ていると必要ないかもしれませんが」
 「ありがたくいただく。大切にする」
 「ありがとう。パーティー楽しかったね。また四人で一緒に料理作ろうね!」
 クラルテとベランジェは封筒を受け取り、馬車へ乗り込む。

 馬車が走り出し、しばらくすると二人はもらった封筒を開けて祈祷紙を見る。
 祈祷紙とは制作者が渡す人物へ願いを込めて作成したものだ。その紙を持っているだけで幸せになれる。
 クラルテはピンクのインク、ベランジェはブルーのインクで書かれている。紙は手触りのよいシルクのような紙で便箋にはこの国の言語ではない文字で丁寧に書かれている。
 「なんて書いてあるの?」
 「少し難しいな。アルフレッドが言っていたように俺たちの幸せを願って書かれていると思うが」
 クラルテとベランジェの便箋は同じような文字並びが多いが、何行かは違っている。
 クラルテは祈祷紙を眺め感傷に浸る。
 「二人がいなければ今の私たちはいないわね」
 クラルテは歴史が繰り返されたかもしれない恐ろしい未来を想像する。
 「二人に感謝しないとな」
 クラルテは頷きベランジェに寄り添う。クラルテとベランジェは今があることに感謝する。
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