【短編】大好きな旦那様の【運命のツガイ】が、私ではなかったとしたら?
ようやく旦那様に謝ることができて、旦那様もそれを許してくれた。私の頬に旦那様の手が触れる。割れ物を取り扱うように丁寧で、私は旦那様の手がすごく好きだ。
「しかし一ヵ月後か」
「その……運命の人に出会うなんてことは……」
「それはあり得ない。私はナタリアを見て、ナタリアと一緒に過ごしてもっと傍に居たい、好きなことや、楽しいことを教えてほしい。それ以上に、こんなに可愛くて、愛おしい人を他の誰かに取られたら、嫉妬に狂いそうにもなった。私がこんなに取り乱すのも、心を揺らすのはナタリアだけだ」
「私にはツガイとしての感覚はわかりませんわ。でも旦那様を愛しています。だからこそ、このままでは旦那様を傷つけてしまうでしょう。それが嫌なのです(それに私はお腹に宿った命を守りたい)」
「……別れるなど、その悪夢よりも先に私の心が死んでしまう。離縁以外に未来の出来事を変える方法はないだろうか」
「奥様、夢の内容をもう少し詳細に教えていただけませんか? そこにヒントがあるかもしれません」
「わかりました」
できるだけ会話も含めて伝えたところ、「あの女」と「嗅いだことのないアルコール、甘い香り」の話に何か思い当たる節があるらしい。南の国から怪しい薬も出回っているとか。
「《クレセントラビット商会》など南の国の商人が、何かと貴族たちの屋敷に出入りしていると小耳に挟みました」
ボリスの情報収集力すごいわ。まるで偵察してきたみたい。私の話はあっさりと二人に受け入れられていた。なんだか拍子抜けしてしまったけれど、信じてくれてよかったわ。
「こうなってくると……国王陛下の提案を受けるしかないだろうな」
「旦那様、奥様と一緒にパーティーに参加してみては? もし旦那様と奥様の仲を引き裂こうとしている者がいるならば、尻尾を見せるのではないでしょうか?」
「ぐっ……(そういう理由でパーティーに駆り出すのは……しかし、陛下の意向もある)妻を化け物の巣窟に連れて行かなければならないなんて……。私の可愛くて愛おしい妻が、毒牙にかかったら……」
旦那様は苦悩するも、ボリスは「旦那様が傍に居れば問題ないのでは?」としれっとした顔をしている。私もお腹の赤ちゃんや旦那様を守るためなら──。