【短編】大好きな旦那様の【運命のツガイ】が、私ではなかったとしたら?
今まで死にそうなほど弱っていた灰褐色の雀は飛び上がり、私の傍に歩もうとするが衝動を堪えているように見えた。そんな葛藤している灰褐色の雀にそっと触れた瞬間、訳も分からず涙が頬を伝ってこぼれ落ちた。
深い後悔と、自分自身への怒り。懊悩が伝わってくる。
ああ。彼、いいえ、この方は──。
「旦那様。そんなに自分を責めなくても、あれは事故だったのですよ」
ふと気づいたらそう呟いていた。ボロボロの羽根に触れた瞬間、彼が何者なのかはっきりと分かった。こんな姿になってまで、私を追いかけてきてくれたのね。一ヵ月後、一度私が終わってしまった世界のイグナート様──旦那様。どういう法則あるいは魔法を使ったのかは分からないけれど、この旦那様は私が一度終わってしまったことを知っている。そしておそらく私が時を逆行したのは、旦那様が関わっているのね。
両手で抱きしめて、そっと頬に近づけた。
「ちゅっ!? ちゅんんんん!」
目を潤ませて震えた声で鳴く。だいたい言いたいことが分かってしまう。艶のある黒髪が灰褐色になって、白髪も少しあるわ。
触れるたびに微かに震えて。
体がとっても軽いし、とっても冷たい。たくさん傷ついて、魂をすり減らして、それでも私に会うためにここまで来てくれたのね。
そう思うと涙が止まらなかった。
私はこの人を置いて逝ってしまったのだ。この不器用で、寂しがり屋で、優しくて、過保護で、愛情深い大事な夫を残してきてしまった。
「旦那様……っ」
あの日、旦那様が手を伸ばして助けようとした姿を思い出して、胸が痛んだ。
私の両手の中で震えている旦那様は、ずっと苦しんで、後悔して、ここまで来た。来てくれた。だから精一杯私もその思いに応えたい。
今、旦那様が望むのは、罰なのかもしれない。責め立てて、どうして助けてくれなかったのか。どうしてあの時に、守ってくれなかったのか。流れ込んでくる感情は後悔と、自分自身を許せない強い思い。
罰を望んでいたとしても、私はその願いには応えられないわ。だって痛々しいほど傷ついた旦那様の心に触れるたび、涙が溢れて止まらない。
小さく震える灰褐色の雀にキスをする。