【短編】大好きな旦那様の【運命のツガイ】が、私ではなかったとしたら?

「──!?」
「旦那様、旦那様を嫌いになるなんてありませんわ。今も、ずっと変わらずに私の中で大好きなのは旦那様です。あの時、旦那様の異変に気づいたのに……置いて逝ってしまってごめんなさい。あれは旦那様のせいではないわ、事故だったのですから。だから、自分を責めるのも私に謝罪するのもなしですわ。そうしないと、ううん、そうしなくても私が一方的に旦那様を愛でて、愛して、キスをしてギュッと抱きしめて離しません。これからはずっと、一緒です」
「ちゅううっん、ちゅんんん!!」

 ふわふわの羽根を愛でて、キスを繰り返すと少しだけ元気になったようだ。弱々しい羽根を広げて、好きだとアピールしている。どんな姿になっても旦那様は、旦那様だと思うと胸がホッコリと温かくなった。でも感動的な再会の後は、必ずしもハッピーエンドにはならないらしい。灰褐色の雀の羽根がボロボロと落ちていく。

「──っ」
「ちゅん、ちゅんん」
「ダメ。そんなこと言わないで。いなくならないでください」
「ちゅん」

 旦那様は震える羽根で私の涙を拭ってくれた。頬にすり寄って、キスも。でも私の両手から飛び去ってしまう。その足指が崩れかけているが見えた。

「旦那様! イグナート様! 待って! ダメ!」

 そう呼んだと同時に正装姿の旦那様が、部屋に戻ってきた。両手には料理と飲み物を持っている。

「イグナート様!」
「ナタリア? 少し遅くなってしま……──っ!?」

 灰褐色の雀は旦那様の中に飛び込み消えてしまう。慌てて旦那様に駆け寄ろうとしたけれど、一歩前に出た旦那様が私を抱きしめる。
 両手に抱えていた料理と飲み物は、後ろから部屋に入ってきたボリスが見事にキャッチしていた。
 旦那様がぎゅうぎゅうに私を抱きしめて離さない。胸板に押しつけられて少し痛いけれど、背中に手を回して少し震えている。ばさああ、と羽根が背中から生えて、羽根が部屋に舞った。翼は私ごと隠すように、守るように、包み込む。

「旦那様」
「ナタリア、ナタリア……なぜだかわからないのだけれど、無性に君を抱きしめて、しまって……でもすまない。しばらく、私が落ち着くまで何も言わずに、このままでも良いだろうか」
「──っ」
「ナタリア?」
「──っ、はい。もちろんですわ。大好きです。……もう、どこにも逝かないでください。私もどこにも逝きませんから」
「ああ」

 どうして未来の旦那様が過去にいるのか。国王陛下とブルーノ王子はどこまで知っているのか、どうやって時を逆行させたのか。疑問ばかりが募るけれど、未来の旦那様が今の旦那様の中に戻って、独りぼっちのまま消えないで良かった。

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