【短編】大好きな旦那様の【運命のツガイ】が、私ではなかったとしたら?

 ***


「お、お見苦しいところをお見せしました……」

 王族の前で何という失態を!
 そう思いながら、私は隣に居る旦那様と手を繋いだまま、国王陛下とブルーノ王子に頭を下げた。

「はははっ、かまわないさ。ブルーノからも今回の件は聞いている。さて、ラリオノフ夫人。君は逆行前の記憶があるのだね」
「!?」

 ずっと黙っていた国王陛下は、このことを確認するために待っていたのだろう。旦那様と繋いでいた手に力が入る。旦那様に視線を向けると「正直に話してくれ」と応えてくれた。私を気遣ってくれる金色の瞳に笑みを返しつつ、国王陛下に向き直る。

「はい。一ヵ月後、不幸な事故があったことを鮮明に覚えていますわ」
「そうか。……では、ブルーノ」
「はい。……ふじん、ぶしつけなおねがいなのですが、……その」
「?」
「ギュッとして……ほしい」
「ええっと」
「私からも頼む」

 ブルーノ王子のよく分からない頼み事だったけれど、まだ幼い彼には母親のような女性の温もりが恋しいのかもしれない。国王陛下からも頼まれたので、旦那様は何か言いたげな顔をしていたが、私の手をそっと離した。
 改めてブルーノ王子の前に跪いて、そっと抱きしめる。
 子供が生まれたら、こんな風に抱きしめるのかしら?
 そんなことを思い幼い王子を包み込んだ。王子は一瞬だけ体を強張らせていたが、すぐに力が抜けて私に身を預けてきた。

「ふっ……うっ……」
「ブルーノ王子?」

 今度はブルーノ王子が声を上げて泣き出してしまい、殿下が落ち着くまで背中を撫で続けた。堰を切ったかのように泣き出すのは、さきほどの私と同じように殿下も未来の記憶を持っているのだろうか。
 それらの事情が知るのは、もう少し先だった。
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