【短編】大好きな旦那様の【運命のツガイ】が、私ではなかったとしたら?

 【運命のツガイ】。
 自分が人族であれば、あんな終わり方を妻にさせなかった。たとえ世界が滅ぶとしても、あんな──悲しい顔をさせなかった。
 手を弾いた時の妻の顔を、私は生涯忘れない。
 驚いて目を見開いて、次の瞬間拒絶されたことに傷ついた顔をしていた。手を伸ばしたのに届かなかった時の諦めた──困った顔。死に向かって瞳に光が消えていく姿。冷たくなっていく体温も、全部覚えている。

 一人で逝かせてしまった。
 あの時、私も一緒に死ねば良かったのに、どうして私は今も生き残っているのだろう。そうだ、凄惨な終わりを望んだ。それが終わっていないから、ずるずると生き地獄を味わっているのだ。できるだけ酷い死を。最愛の妻を殺してしまった男にふさわしい罰を。

「罰がほしいのなら、貴殿の奥方に下してもらうことも可能だ。この時戻しの魔法という禁術は、使用者とその近しい者たちの記憶を残したまま時戻しを行う。つまり時戻しを行った者たちの中で、この未来を覚えている者がいるということ。貴殿が術者の一人として協力するなら、間違いなく奥方は記憶を残したまま死に戻りをする」
「妻に……」

 妻にまた会える。妻が私を終わらせるのなら、喜んで受け入れよう。気まぐれだった。
 王子の【運命のツガイ】候補は生まれる前に亡くなったらしい。それがあの忌まわしい歪狂愛(アムール・トーデュ)が出回った頃だとか。

 占い師の話では候補は五、六人いるらしい。その中で事故死した者。
 そうまでして【運命のツガイ】に会いたいだろうか。王子は王子で並々ならぬ執念を持っていた。
 私は妻に、会いたい。会って謝りたい。魔王と呼ばれる前だったら飛びついただろう。けれど心が壊れた今は罰を下してくれる死神として、妻との再会を望んだ。

 そう──妻と再会するまでは、そう思っていた。


 ***


「ちゅ? ……ちゅんん!?」

 私は自分の肉体ではなく薄汚れた毛玉のような雀として過去の時間軸に戻って来た。私は魔王として大鷲族とは外れた存在の魂の形をしていたため、自身の魂に戻れなかったらしい。あまりにもイレギュラーだったが、それでも妻に会えるのならもう何でも良かった。
 それになのに。
 私が何者なのか分からないと思ったのに。
 目が合った瞬間、妻は私を抱きしめて泣いた。

「イグナート旦那様?」
「──っ、ちゅんんん!」
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