【短編】大好きな旦那様の【運命のツガイ】が、私ではなかったとしたら?
どうして、分かったのだろう。
妻は人族で、匂いで私が何者か分からないはずなのに。【運命のツガイ】だと匂いで、直感で分からないのに、どうして私だと分かるのだろう。でもいい、私を見て怯えて、怒って、罵って──。
「旦那様、そんなに自分を責めなくても、あれは事故だったのですよ」
どうして君は、そんなことを言うのか。
あれはどう考えても私が君を殺したようなものなのに。
君を傷つけて、死なせてしまった。
それなのに、君は──。
「旦那様、旦那様を嫌いになるなんてありませんわ。今も、ずっと変わらずに私の中で大好きなのは旦那様です。あの時、旦那様の異変に気づいたのに……置いて逝ってしまってごめんなさい。あれは旦那様のせいではないわ、事故だったのですから。だから、自分を責めるのも私に謝罪するのもなしですわ。そうしないと、ううん、そうしなくても私が一方的に旦那様を愛でて、愛して、キスをしてギュッと抱きしめて離しません。これからはずっと、一緒です」
私のずっとほしかった言葉を、君はどうしてくれないのだろう。
どうして私を罵って、怒って、嫌いだと──言わないのだ。君に愛される資格など私にはないというのに。
妻の、ナタリアの言葉一つ一つが、私の強張った心を潤す。
心が枯れた? 壊れた?
違う。ただ心が凍っていただけ。いや壊れていたとしたら妻が癒した。完全に私の認識不足だったのだ。私だけではなく、妻を悲しませて自分だけ不幸に酔って恥ずかしい。
ああ、もし叶うのなら、今回は私のような愚かな過ちを犯さず、私の知る未来とは違う選択肢を──。
その思いだけで翼を広げて、私は過去の私へと戻る。妻と再会して魂の形が戻った今なら、かつての私に戒めぐらいには役に立つだろう。
そして魔王の記憶をどこか他人事のように客観視しながら、私は受け入れた。救えなかった未来の末路を、絶望を、罰を、願った愚かな男の生涯を背負った。