【短編】大好きな旦那様の【運命のツガイ】が、私ではなかったとしたら?
 ***


「つまり私とナタリアの子が、殿下の【運命のツガイ】の可能性が高い……と?」
「そうだ」

 よりにもよってこの王子の伴侶が私の娘の可能性が高いとか、頭が痛くなってきた。この男の【運命のツガイ】に対する執念は狂っている。正直、まだ生まれてもいない我が子の伴侶が決まっているとか認めたくない。

「まあ。でも可能性があるだけなのなら、生まれてから場を設けることにしましょう」
「ふじん……」

 うるっと泣きそうな顔をしているが、妻はそっと王子の頭を撫でた。

「この子が生まれた瞬間から、そのように決められるのは好きではありません。それに【運命のツガイ】だったとしても、私も夫もちゃんと恋人としてお付き合いをしてから、結婚をしておりますわ。お互いの気持ちを尊重できずに一方的な愛情の押しつけは許しません」
「凜として強気な妻が愛おしい」
「旦那様ったら」

 そうだ。【運命のツガイ】だからといって婚姻を迫ったら断られて、友人から関係をスタートしたのだった。懐かしい。

「そうしているあいだに、うばわれたくない」
「あら、王子だけしか選択肢がないのと、大勢の中から貴方様を選ぶのでは、全然違うと思うのだけれど、生まれてくる子にたくさんの選択肢を与えてくださらないの?」

 妻はどこまでも聡明で、芯がしっかりしていて強い。朝ごはんを食べないと途端に嘘がつけなくて、本音をたくさん言ってしまう可愛い人だけれど。
 王子の狂人めいた思考を和らげて、癒やす。
 あっという間にブルーノ王子に気に入られ、ナタリアの知名度はもちろん王家の後ろ盾を得たことで、ちょっかいを出そうとする令嬢はいなくなった。

 もっともヴィルヘルミナ・ワン嬢は私の妻に危害を加えるつもり満々だったので、さっさと処理をした。一族もろともはさすがにやり過ぎだと判断し、《クレセントラビット商会》と繋がりがあった者、売り出す予定だった歪狂愛(アムール・トーデュ)のレシピや製造を知る者は全てを闇に葬った。
 今度こそ、守り切る。そう私は私の魂に誓ったのだから。


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