【短編】大好きな旦那様の【運命のツガイ】が、私ではなかったとしたら?

 確かに人族には【運命のツガイ】だと感じる感覚はないらしい。だからこそ愛されていることに不安にもなると。そう言えばあの令嬢は人族の血が濃いので、名前もワン家にはそぐわない名を付けられたとか。不憫ではあるが、こちらの家庭を引っかき回すのなら、容赦はしない。

「と・に・か・く、人族には愛情表現をしっかりすることが一番ッス。甘い言葉や贈り物とかではなく、本気だと分かってもらわないとダメッス!」
「妻を不安にさせない」
「そうッス。まあ、結婚前のマリッジブルーとか、あるいは子供ができると少しネガティブになるとか」
「子供……(ナタリアとの子供……天使だな、超絶可愛い)」
「団長?」
「……妻に会いたくなってきた」
「今日は定時で仕事を終わらせるようにと調整するので、しっかりと話し合いをするッスよ!」
「ああ。頼む」

 そこでいつもは話が終わるのだが執務室に入った瞬間、客人用のソファに国王陛下が腰掛けていた。後ろには近衛騎士まで勢揃いで、いつから居たのだろうか。

「やっと来たか、ラリオノフ公。いや騎士団長」
「国王陛下!?」

 驚きつつも、副官のジークと共に片膝を突いて頭を下げる。アンブローズ・オルブライト・エイデン国王陛下。金髪に獅子の耳、深紅の瞳、がっしりと体格で強面に見えなくもないが、非常に温厚かつ有能な王は民にも臣下にも慕われている。
 そんな国王陛下は子煩悩で、今年四歳になる第三王子ブルーノ王子を抱っこしている。微笑ましい絵面だが、いったいどんな用件なのだろうか。騎士に興味を持ったご子息のために足を運んだ?

「陛下、本日はどのようなご用件でしょうか?」
「そうかしこまらずとも良い。……相変わらず眼光が鋭いな。ブルーノが怖がるでは無いか」
「そういう顔なので」
「だが」
「そういう顔なので」
「陛下、団長の表情が崩れるのは奥方の前だけッス」
「そうか。そうだな。……そのラリオノフ騎士団長の奥方についてなのだが、ブルーノが一度会いたいと言い出してだな」
「お断りしても?」

 近衛騎士たちの表情が強張ったがどうでもいい。陛下も苦笑しつつ、手を上げて近衛騎士の動きを制した。

「それは困るな。なにせ滅多に我が儘を言わないブルーノが、公爵夫人に会いたいと言っているのだ」
「妻に?」
「なにこの子が欲しているのは母親ではなく、ツガイのほうだ」
「……?」
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