黒薔薇の悪女は、カピバラ侯爵様の餌付けに成功したらしい?
8 舞踏会
舞踏会の日、ケリスの用意してくれたエメラルドグリーンのイブニングドレスに、ブラウンダイヤモンドのイヤリングを付けた。ケリスも黒の燕尾服がよく似合っている。
王宮に到着して国王陛下や王妃への挨拶や、その他の要人への挨拶を済ませると、一息ついた。
「レティーシャ。王宮の肉料理は最高なんだ。特にあの牛肉の塊。あと、あの鶏肉の丸焼きも旨い」
ケリスの声が心なしか弾んでいるように聞こえる。今まで私は舞踏会に出ても、あまり料理には興味なかった。ケリスはガッツリ食べる派らしい。
「ケリス様、あまり食べ過ぎないようにお願いします。この後、ダンスが踊れなくなりますから」
「う、まあ、気を付ける……」
「ケリス! ここに居たのか。探したぞ」
聞き覚えのある声が聞こえて振り返ると、ブロンズの髪にブルーの瞳の、よく知る人物が近づいてきた。
ショーン王太子殿下だった。
「ショーンか。どうした?」
「どうしたって、お前、例のアレはどうするんだ?」
「う、うう、まあ……」
ケリスとショーン殿下は親しげに話を続けていた。すると殿下はこちらに視線を送る。私はスカートを持ち軽く会釈をした。
「レティーシャ嬢、いや、ワルソン侯爵夫人だったな。久しいな。体調が悪いと聞いていたがもう問題ないのか?」
「お心遣い痛み入ります。もう大丈夫ですわ」
仮病でしたとは言えないので、笑顔で誤魔化す。
「そうか」
ショーン殿下はまたケリスに視線を移す。
「ケリスが痩せたのは、夫人の旨い手作り料理のおかげだとケリスが惚気ていたが、それは本当か?」
「はい?」
「ショーン! 何を言ってるんだ!」
「あはは、ケリス、本当のことじゃないか。そんなに怒るなよ」