黒薔薇の悪女は、カピバラ侯爵様の餌付けに成功したらしい?
10 満天の星の下で
熱気の冷めやらぬ会場から、バルコニーに二人で抜け出してきた。
秋の夜風が心地よい。暫くお互いに黙って星を眺めていたが、ケリスが先に口を開いた。
「俺が前髪を伸ばし始めたきっかけを作ったのは、レティーシャ、君なんだよ」
「え? 私!?」
どういうこと!? 訳がわからずケリスを見上げると、彼は静かに微笑んで言葉を続けた。
「前に話したよね、俺は昔から容姿について揶揄われていたって」
「はい」
「子供の頃親に連れて行かれた茶会で、いつものように他の子供達から揶揄われてた。俺は何も言い返せないで、時間が過ぎるのを待っているだけだった。その時、君が現れた」
「私ですか?」
「あぁ。君は俺よりも小さいのに、奴らに向かって凛とした姿で、『寄ってたかって一人の子をいじめるなんて、なんてテイゾクなのかしら。それにあなた達も大したことないのだから、ジブンミガキされた方がいいですわよ!』って。公爵家の黒薔薇令嬢に言われたら何も言えないよね。そして俺に向かって『言われっぱなしなんて情けない』と」
ケリスは苦笑いしている。
冷や汗が出てきた。なんてことを言っていたの、過去の私は。昔から高飛車だったのは確かだけど。
「それに『あなたのその目はとてもキレイなのだから、堂々としてればいいのよ』と言ってくれたんだ」
私ははっとして彼の横顔を見つめた。