不老不死の魔女を愛した男は、不老不死になるため引き継ぎ転生を繰り返す
11
カルロの産みの母親や求婚女子の騒動もおさまり、カルロもまた旅立った。
アタナシアはやっとまた平穏を取り戻した。
カルロからの手紙も減ってきたことから、魔法学校で知り合った生徒達と楽しくやっているのだろう。
もしかしたら良い人や良い場所を見つけたのかも。そうアタナシアは勝手に想像する。
相変わらず小さいままのドラゴンの世話をして、動物達と一緒にのんびりと贅沢に時間を使う。
今日は外で昼寝をしようと用意したハンモックに寝転がる。小刻みに揺れるそれは眠るのにちょうど良い。
そうやってカルロの手紙を気長に待つようになった。
◇
どんどんと手紙のやり取りが減り、いつの間にかアタナシアの手元に手紙が届くことはなくなった。
気づけば手紙が来なくなってもう4年経っていた。
「帰ってこないのなら、帰ってこないと手紙で言ってくれれば良いものを……」
愚痴を零してしまうほどにぱったりと止んだ手紙のやり取り。
カルロの手紙はどう読んでも続きがあるのに、その回答さえ得られない。
この話はやめようとそれを言うだけでよかったのに、それさえもなく。
「引き継ぎ転生……いや不老不死の呪いを失敗したのか?」
不老不死の呪いは正確な詠唱と十分な魔力の器が必要だ。
「カルロは強い子だから、きっとどこかで生きている、よな」
貴重な鱗も何かあってはいけないと思い持たせたのだ。そう簡単に死んでもらっては困る。
気を紛らわすためにカルロに貰った紅茶を淹れて、一息。
できるだけ忘れられるように本を読み、様子を見に来た動物達と戯れた。
だが、カルロのものが家にある限り、心にわだかまりは残る。アタナシアは消費できるものはさっさと消費してしまおうとカルロから貰った消え物を意図的に選ぶ。
自分好みの茶葉やクッキー、カルロの好きなケーキや飲み物。
追い出したのに、これでは戻らない男に未練があるように見えて、アタナシアは大きくため息を吐いた。
いっそ全て捨ててしまおうかと魔法を唱えようとしたタイミングで、5回窓を叩く音。すかさず鏡を確認する。
「カル、ロじゃないな。アヴィゲイルか……」
落胆している自分に不快感を覚えたが、その込み上げる感情を無視してアヴィゲイルを迎える。
「久しぶりだな。今日はどうしたんだ、アヴィゲイル」
「お久しぶりです、魔女様。カルロ様より荷物を預かっておりますの」
「カルロから?」
綺麗にラッピングされた箱を受け取った。手に収まるほど小さな箱。何が入っているのアタナシアには想像もつかない。
「では、渡しましたからね。中に手紙も入っているそうなので、ちゃんと読んでくださいませ」
「今日はゆっくりしていかないのか?」
「そうしたいのは山々なのですが……わたくし結婚式の準備で忙しいんですの」
隣国の王子と結婚することになったアヴィゲイル。
恋愛結婚とまではいかないが、良好な関係を築いているとアヴィゲイルは照れ臭そうに話した。
少し前までカルロに執着していたのが嘘のようだ。
「それはめでたいな」
「呼んだら、来てくださいますか?」
「もちろんだ。流行りのドレスを確認しておこう」
「ふふ。そうしてくださいな。もし間に合えば、カルロ様も連れてきてください。お2人は私にとって目の保養ですので」
「……わかった」
顔を曇らせたアタナシアにアヴィゲイルは息を吐いた。
「追い出した本人が悲しい顔をしないでくださいませ。貴女はどんと構えていれば良いのです」
貴女を置いて死ぬわけないでしょう。と当たり前のように言ってのけるアヴィゲイル。
アタナシアでさえ気に病んでいたと言うのに。
「そうするよ。アヴィゲイル、ありがとう。そうだ、これを渡しておこう」
そう言ってアヴィゲイルの手に握らせたのは、魔法石が埋め込まれているブレスレットだった。
カルロに渡したドラゴンの鱗ほどの効力はないが、お守りとしては最適な物だ。
「あ、ありがとうございます! 旦那様からブレスレットをいただいても、これだけは外せませんわね」
大事そうに持つアヴィゲイルを見て、カルロの様子と重なってしまう。
それに気づいたアヴィゲイルは呆れた表情で言う。
「もう、言った側から……。カルロ様が見たらきっとお喜びになるのでしょうね」
「やめろ、あり得そうなのが怖いぞ」
「ふふふ。……あ、そろそろ行かなくては。では、今度はわたくしの結婚式で会いましょうね」
「うん。楽しみにしているよ」
アヴィゲイルが森から抜けたのを確認した後、家へと入り丁寧にラッピングを解き、箱を開ける。
「カルロからの贈り物は……こ、これは」
そこには指輪が入っていた。
手紙を見れば、「婚約指輪だ。それを嵌めてもう少し待っていてくれ」とだけ。
「は? 婚約、指輪……?」
どの指に嵌めるのが正解なのか?
結婚指輪も買うつもりなのか?
結婚式も挙げつもりなのか?
たくさんの疑問が浮かび上がっては消え浮かび上がっては消えて。
自分が貰ったことのないプレゼントや経験したことのない感情に思考が追いつかず。アタナシアは頭を押さえてその場で動けなくなったのだった。
「カルロ……、帰ってきたら覚えてろよ」
これほどまで誰かが帰ってくるのを待ち遠しいと思ったのは、今日が初めてだった。
アタナシアはやっとまた平穏を取り戻した。
カルロからの手紙も減ってきたことから、魔法学校で知り合った生徒達と楽しくやっているのだろう。
もしかしたら良い人や良い場所を見つけたのかも。そうアタナシアは勝手に想像する。
相変わらず小さいままのドラゴンの世話をして、動物達と一緒にのんびりと贅沢に時間を使う。
今日は外で昼寝をしようと用意したハンモックに寝転がる。小刻みに揺れるそれは眠るのにちょうど良い。
そうやってカルロの手紙を気長に待つようになった。
◇
どんどんと手紙のやり取りが減り、いつの間にかアタナシアの手元に手紙が届くことはなくなった。
気づけば手紙が来なくなってもう4年経っていた。
「帰ってこないのなら、帰ってこないと手紙で言ってくれれば良いものを……」
愚痴を零してしまうほどにぱったりと止んだ手紙のやり取り。
カルロの手紙はどう読んでも続きがあるのに、その回答さえ得られない。
この話はやめようとそれを言うだけでよかったのに、それさえもなく。
「引き継ぎ転生……いや不老不死の呪いを失敗したのか?」
不老不死の呪いは正確な詠唱と十分な魔力の器が必要だ。
「カルロは強い子だから、きっとどこかで生きている、よな」
貴重な鱗も何かあってはいけないと思い持たせたのだ。そう簡単に死んでもらっては困る。
気を紛らわすためにカルロに貰った紅茶を淹れて、一息。
できるだけ忘れられるように本を読み、様子を見に来た動物達と戯れた。
だが、カルロのものが家にある限り、心にわだかまりは残る。アタナシアは消費できるものはさっさと消費してしまおうとカルロから貰った消え物を意図的に選ぶ。
自分好みの茶葉やクッキー、カルロの好きなケーキや飲み物。
追い出したのに、これでは戻らない男に未練があるように見えて、アタナシアは大きくため息を吐いた。
いっそ全て捨ててしまおうかと魔法を唱えようとしたタイミングで、5回窓を叩く音。すかさず鏡を確認する。
「カル、ロじゃないな。アヴィゲイルか……」
落胆している自分に不快感を覚えたが、その込み上げる感情を無視してアヴィゲイルを迎える。
「久しぶりだな。今日はどうしたんだ、アヴィゲイル」
「お久しぶりです、魔女様。カルロ様より荷物を預かっておりますの」
「カルロから?」
綺麗にラッピングされた箱を受け取った。手に収まるほど小さな箱。何が入っているのアタナシアには想像もつかない。
「では、渡しましたからね。中に手紙も入っているそうなので、ちゃんと読んでくださいませ」
「今日はゆっくりしていかないのか?」
「そうしたいのは山々なのですが……わたくし結婚式の準備で忙しいんですの」
隣国の王子と結婚することになったアヴィゲイル。
恋愛結婚とまではいかないが、良好な関係を築いているとアヴィゲイルは照れ臭そうに話した。
少し前までカルロに執着していたのが嘘のようだ。
「それはめでたいな」
「呼んだら、来てくださいますか?」
「もちろんだ。流行りのドレスを確認しておこう」
「ふふ。そうしてくださいな。もし間に合えば、カルロ様も連れてきてください。お2人は私にとって目の保養ですので」
「……わかった」
顔を曇らせたアタナシアにアヴィゲイルは息を吐いた。
「追い出した本人が悲しい顔をしないでくださいませ。貴女はどんと構えていれば良いのです」
貴女を置いて死ぬわけないでしょう。と当たり前のように言ってのけるアヴィゲイル。
アタナシアでさえ気に病んでいたと言うのに。
「そうするよ。アヴィゲイル、ありがとう。そうだ、これを渡しておこう」
そう言ってアヴィゲイルの手に握らせたのは、魔法石が埋め込まれているブレスレットだった。
カルロに渡したドラゴンの鱗ほどの効力はないが、お守りとしては最適な物だ。
「あ、ありがとうございます! 旦那様からブレスレットをいただいても、これだけは外せませんわね」
大事そうに持つアヴィゲイルを見て、カルロの様子と重なってしまう。
それに気づいたアヴィゲイルは呆れた表情で言う。
「もう、言った側から……。カルロ様が見たらきっとお喜びになるのでしょうね」
「やめろ、あり得そうなのが怖いぞ」
「ふふふ。……あ、そろそろ行かなくては。では、今度はわたくしの結婚式で会いましょうね」
「うん。楽しみにしているよ」
アヴィゲイルが森から抜けたのを確認した後、家へと入り丁寧にラッピングを解き、箱を開ける。
「カルロからの贈り物は……こ、これは」
そこには指輪が入っていた。
手紙を見れば、「婚約指輪だ。それを嵌めてもう少し待っていてくれ」とだけ。
「は? 婚約、指輪……?」
どの指に嵌めるのが正解なのか?
結婚指輪も買うつもりなのか?
結婚式も挙げつもりなのか?
たくさんの疑問が浮かび上がっては消え浮かび上がっては消えて。
自分が貰ったことのないプレゼントや経験したことのない感情に思考が追いつかず。アタナシアは頭を押さえてその場で動けなくなったのだった。
「カルロ……、帰ってきたら覚えてろよ」
これほどまで誰かが帰ってくるのを待ち遠しいと思ったのは、今日が初めてだった。