不老不死の魔女を愛した男は、不老不死になるため引き継ぎ転生を繰り返す
2
カルロが去って10年。
2,3年経った頃は、やっと静かになったと清々していたところだが、5年もすると静かすぎると思うようになった。
手のかからない子だったため、別にカルロがうるさかったわけではないのだが。
少し寂しく思いながらも、何度もこれが最善だとアタナシアは自分に言い聞かせた。
◇
「本当にこの森にカルロを育てた魔女がいるのか?」
誰も近寄らないはずの森に3人の人間が訪れる。
歩いても歩いても魔女の家は見つからず。
辿りつかないもどかしさに、筋肉質の男……ワイアットが嘆くように言葉を投げた。
「カルロが言ってたじゃない。魔女はこの森の奥にいるって」
大きなリュックを背負って息を切らしながらも歩みを止めない女……エリンは、カルロから貰った地図を指差して言う。
指差した場所を眺めるワイアットは、眉間に皺を寄せた後、顔を歪める。
「じゃあ、もしかして俺たち意図的に惑わされてたり……?」
「試しに入った奴が追い出されたって言ってたし、ありえるだろう」
2人の後ろをただ静かに歩いていた眼鏡をかけた男……トレバーは、それが当たり前とでも言うような話し方をする。
「やだやだこれ届けないと帰れないよぉ」
「それは大変だな」
「ぎゃー!!!」
木の上から突然降りてきた声と人影に、ワイアットとエリンは同時に悲鳴をあげた。
「子供はうるさいな……」
「僕たち成人してます」
1人冷静にツッコミを入れるトレバーは、目の前にいる女……アタナシアを見て、眼鏡を掛け直す。
「それは悪かった。それで、私に何か用かな。カルロのご友人……?」
「えっと、私たちカルロを勝手に尊敬している者です。魔法学校で同期だったんです」
カルロはすぐ辞めちゃいましたけどね。とエリンは苦笑い。その隣でワイアットはアタナシアを見て目を輝かせた。
「今日来たのは、カルロが尊敬している魔女に一目会いたいと思ったからっス!」
「なるほどね。……会えたからもう帰るか?」
心底面倒臭そうなアタナシアに、エリンは慌てて引き留めてリュックから鳥籠を取り出し、アタナシアに見せる。
「ま、待ってください。もう少しお話を聞かせて欲しいです」
アタナシアはエリンが取り出した鳥籠の中身を興味深そうに凝視する。
それを見ていたワイアットは小声でトレバーに話しかける。
「おい、本当に食いつきがいいぞ」
「ドラゴンを飼ってみたいという話は本当のようだな」
魔女に会ってみたいとカルロに話したところ、カルロは小さなドラゴンを3人に持って行けと渡していた。
あまり多くは語らなかったが、カルロは「魔女はドラゴンを飼ってみたいと話していた」と。
「君たちを歓迎しよう。そのままそこに立っていて」
返事を聞く前にアタナシアは指を鳴らす。
瞬時に家の前に到着したことにより、3人は目を大きく見開いた。
「すげー! 複数人一瞬で飛ばせるってかなり魔力量いるんじゃなかったっけ!?」
「ああ。俺たちにはできない芸当だな」
尊敬の眼差しで見るワイアットと、平静を装いたいのだろうが、興奮して手が震え少し頬の赤みが目立つトレバー。
「魔力量が足りなくとも、魔力を込めた石があれば誰でも可能だ」
「魔石ってかなりお高くないですか?」
「ああ、そうか。普通は買うのか……」
通常の魔法使いであれば、魔力量の多い魔法使いが注入した魔石を買う。
だが、魔力回復には時間がかかり、また魔力の多い人間は希少なためその分値が張る。
そのため、魔法の使えない金持ちか、魔力が大量に必要な機関ぐらいしか買うことはほとんどない。
「も、もしかして魔女様は自分で作るんですか!?」
エリンは好奇心を露わにした。
家へと招き入れアタナシアは、引き出しにしまっておいた魔石を3人に手渡す。
「私の魔力を注入しているものだ。魔力量も少なく一度きりしか使えないが……受け取って」
青く光る魔石を前に3人は動けない。初めての魔石をこんなにも簡単に手渡し、魔力量が少ないと言ってのけるのだから動揺する他ない。
「こ、こんな高価なものいいんですか?」
キラキラと輝く魔石から目を離せないエリンは、魔石を凝視したままアタナシアに問うた。
アタナシアは「大したものではないよ」と平然と言う。
トレバーは興奮が抑えられなくなり、口元を手で覆っている。魔力量を確認しているのだろう、石を何度も触っている。
「……ほ、本当にこれ、少ないんですか?」
「ああ、私の魔力量の1パーセントしか入っていない」
「1パーセントでこの量なんですか?」
「ええ? トレバーが驚くほど……?」
トレバーは眼鏡を掛け直し、エリンへ大きく頷いた。その様子をエリンは別人のようだと驚くばかりだ。
「俺はトレバーみたいに測れないけど、すげー量なのはなんとなくわかる気がするぜ」
「魔力量って増やせるのかな……」
飲み物を魔法で準備をするアタナシアの姿をぼんやりと眺めていたエリン。
無尽蔵のごとく魔法を使うアタナシアが羨ましいのだ。
「増やせるさ。ただ器を大きくする必要があるから、カルロのやっている引き継ぎ転生が1番簡単だろう」
「う、嘘だろ……あれが1番簡単なのかよ」
「あれ以外なら……魔力の多い魔物狩か、膨大な金を払って器の大きさを強制的に拡大する方法だな」
魔力の多い魔物狩はかなりハードだ。
魔力が多いと言うことは、それだけ力を蓄えていることになる。また、引き継ぎ転生で1器が大きくなるとすれば、魔物狩は0.05程度しか大きくならない。
量を狩る必要があり、時間もかかるためお勧めできない。
金をかけて器を拡大するのは簡単だが、かなりの痛みを味わうことになる。それなのに1回で増やせる器は0.5。金額と痛みの酷さに誰もが割に合わないと嘆くほど。
ちなみにカルロは引き継ぎ転生と魔物狩りを並行しようと模索中。それは転生の量を減らすようアタナシアが提案したものだ。
素直なカルロは魔物狩りを続行しており、周りの人々に感謝されているんだとか。
「私達に無理なことはよーくわかりました……」
「基本生まれた時に魔力量は決まっているからな」
トドメを刺された3人は、アタナシアのあっけらかんとした姿に、カルロの姿を重ねるのだった。
2,3年経った頃は、やっと静かになったと清々していたところだが、5年もすると静かすぎると思うようになった。
手のかからない子だったため、別にカルロがうるさかったわけではないのだが。
少し寂しく思いながらも、何度もこれが最善だとアタナシアは自分に言い聞かせた。
◇
「本当にこの森にカルロを育てた魔女がいるのか?」
誰も近寄らないはずの森に3人の人間が訪れる。
歩いても歩いても魔女の家は見つからず。
辿りつかないもどかしさに、筋肉質の男……ワイアットが嘆くように言葉を投げた。
「カルロが言ってたじゃない。魔女はこの森の奥にいるって」
大きなリュックを背負って息を切らしながらも歩みを止めない女……エリンは、カルロから貰った地図を指差して言う。
指差した場所を眺めるワイアットは、眉間に皺を寄せた後、顔を歪める。
「じゃあ、もしかして俺たち意図的に惑わされてたり……?」
「試しに入った奴が追い出されたって言ってたし、ありえるだろう」
2人の後ろをただ静かに歩いていた眼鏡をかけた男……トレバーは、それが当たり前とでも言うような話し方をする。
「やだやだこれ届けないと帰れないよぉ」
「それは大変だな」
「ぎゃー!!!」
木の上から突然降りてきた声と人影に、ワイアットとエリンは同時に悲鳴をあげた。
「子供はうるさいな……」
「僕たち成人してます」
1人冷静にツッコミを入れるトレバーは、目の前にいる女……アタナシアを見て、眼鏡を掛け直す。
「それは悪かった。それで、私に何か用かな。カルロのご友人……?」
「えっと、私たちカルロを勝手に尊敬している者です。魔法学校で同期だったんです」
カルロはすぐ辞めちゃいましたけどね。とエリンは苦笑い。その隣でワイアットはアタナシアを見て目を輝かせた。
「今日来たのは、カルロが尊敬している魔女に一目会いたいと思ったからっス!」
「なるほどね。……会えたからもう帰るか?」
心底面倒臭そうなアタナシアに、エリンは慌てて引き留めてリュックから鳥籠を取り出し、アタナシアに見せる。
「ま、待ってください。もう少しお話を聞かせて欲しいです」
アタナシアはエリンが取り出した鳥籠の中身を興味深そうに凝視する。
それを見ていたワイアットは小声でトレバーに話しかける。
「おい、本当に食いつきがいいぞ」
「ドラゴンを飼ってみたいという話は本当のようだな」
魔女に会ってみたいとカルロに話したところ、カルロは小さなドラゴンを3人に持って行けと渡していた。
あまり多くは語らなかったが、カルロは「魔女はドラゴンを飼ってみたいと話していた」と。
「君たちを歓迎しよう。そのままそこに立っていて」
返事を聞く前にアタナシアは指を鳴らす。
瞬時に家の前に到着したことにより、3人は目を大きく見開いた。
「すげー! 複数人一瞬で飛ばせるってかなり魔力量いるんじゃなかったっけ!?」
「ああ。俺たちにはできない芸当だな」
尊敬の眼差しで見るワイアットと、平静を装いたいのだろうが、興奮して手が震え少し頬の赤みが目立つトレバー。
「魔力量が足りなくとも、魔力を込めた石があれば誰でも可能だ」
「魔石ってかなりお高くないですか?」
「ああ、そうか。普通は買うのか……」
通常の魔法使いであれば、魔力量の多い魔法使いが注入した魔石を買う。
だが、魔力回復には時間がかかり、また魔力の多い人間は希少なためその分値が張る。
そのため、魔法の使えない金持ちか、魔力が大量に必要な機関ぐらいしか買うことはほとんどない。
「も、もしかして魔女様は自分で作るんですか!?」
エリンは好奇心を露わにした。
家へと招き入れアタナシアは、引き出しにしまっておいた魔石を3人に手渡す。
「私の魔力を注入しているものだ。魔力量も少なく一度きりしか使えないが……受け取って」
青く光る魔石を前に3人は動けない。初めての魔石をこんなにも簡単に手渡し、魔力量が少ないと言ってのけるのだから動揺する他ない。
「こ、こんな高価なものいいんですか?」
キラキラと輝く魔石から目を離せないエリンは、魔石を凝視したままアタナシアに問うた。
アタナシアは「大したものではないよ」と平然と言う。
トレバーは興奮が抑えられなくなり、口元を手で覆っている。魔力量を確認しているのだろう、石を何度も触っている。
「……ほ、本当にこれ、少ないんですか?」
「ああ、私の魔力量の1パーセントしか入っていない」
「1パーセントでこの量なんですか?」
「ええ? トレバーが驚くほど……?」
トレバーは眼鏡を掛け直し、エリンへ大きく頷いた。その様子をエリンは別人のようだと驚くばかりだ。
「俺はトレバーみたいに測れないけど、すげー量なのはなんとなくわかる気がするぜ」
「魔力量って増やせるのかな……」
飲み物を魔法で準備をするアタナシアの姿をぼんやりと眺めていたエリン。
無尽蔵のごとく魔法を使うアタナシアが羨ましいのだ。
「増やせるさ。ただ器を大きくする必要があるから、カルロのやっている引き継ぎ転生が1番簡単だろう」
「う、嘘だろ……あれが1番簡単なのかよ」
「あれ以外なら……魔力の多い魔物狩か、膨大な金を払って器の大きさを強制的に拡大する方法だな」
魔力の多い魔物狩はかなりハードだ。
魔力が多いと言うことは、それだけ力を蓄えていることになる。また、引き継ぎ転生で1器が大きくなるとすれば、魔物狩は0.05程度しか大きくならない。
量を狩る必要があり、時間もかかるためお勧めできない。
金をかけて器を拡大するのは簡単だが、かなりの痛みを味わうことになる。それなのに1回で増やせる器は0.5。金額と痛みの酷さに誰もが割に合わないと嘆くほど。
ちなみにカルロは引き継ぎ転生と魔物狩りを並行しようと模索中。それは転生の量を減らすようアタナシアが提案したものだ。
素直なカルロは魔物狩りを続行しており、周りの人々に感謝されているんだとか。
「私達に無理なことはよーくわかりました……」
「基本生まれた時に魔力量は決まっているからな」
トドメを刺された3人は、アタナシアのあっけらかんとした姿に、カルロの姿を重ねるのだった。