不老不死の魔女を愛した男は、不老不死になるため引き継ぎ転生を繰り返す
3
アタナシアを訪ねてきた3人は、森で迷って苦しんでいたのが嘘のように軽快に森を抜けた。
人との会話が久々だったアタナシアは疲れ切った表情を浮かべ頬を揉んだ。
「表情筋が死んでいる……」
ベッドへと倒れ込み、天井を眺める。
またこれから数年は誰かと話すこともないだろう。そう思いながらそのまま眠りについた――。
魔法公学校の生徒が来てから数日が経った。
アタナシアが2度寝しようかと迷っていると、小鳥が窓をコンコンと5回叩く。
森の中へ人が入ってきた合図だ。
魔法で知らせることも可能だが、小鳥が自分の仕事だと思っていて、毎度誰か来れば伝えに来る。
その度におやつを渡しているので、それ目当ても入っている。アタナシアもそれは察しているのでいつも多めに持たせていた。
また誰か来たのかと億劫に思いながらも、無視を決め込むことのできないアタナシア。
魔法でサクッと準備を整えてから、鏡に侵入者を映し出す。
そこには大きな荷物を抱えた老夫婦。
迷い込んだのか、アタナシアに会いに来たのか、夫婦の会話を聞こうと黙っていると、婦人は「こちらで合っているのかしら?」と小首を傾げた。
老人には優しく。そう教えられていたアタナシアは、すぐさま老夫婦の前に姿を現す。
「迷ったのか?」
言葉を飾らず挨拶もしないアタナシア。だが、老夫婦は気にしておらず柔らかな笑みを浮かべた。
「あらあら、美人さんだねぇ」
「君がカルロ君の育ての親かい?」
「まぁ、そうだな」
「やっぱり! 喋り方がそっくりねぇ」
「親がこれなら納得だなぁ」
笑い合う2人のペースにアタナシアは戸惑う。
老人に優しくしろと言われてはいるが、老人が得意というわけではないのだ。
むしろアタナシアはすでにこの2人よりも生きている。しかし、子供のような性格のまま育ち、今では何もかもが止まっているため、このマイペース具合は肌に合わないのだ。
「……カルロを知っているということは、私に用か?」
「ああ。君にお礼をしたくて来たのだ」
「お礼? カルロにではなく私に、か?」
「カルロはね、僕たちの娘の子だ」
「そうか」
老夫婦の娘はカルロを産んだ。
しかしアルビノであったカルロは、気持ち悪がられ、自分たちの子ではないとして捨てることにした。
そこで誰も寄りつかないこの森に捨て黙っていたのだ。
腹が大きくなり、子ができたから祝い金が欲しいとこれみよがしに強請る娘へ金を渡していた。
そろそろ生まれた頃だろうと楽しみに娘の家へと尋ねた老夫婦だったが、娘は「あれは私の子ではないから捨てた」と悪びれる様子もなく語っていたのだ。
どのようにカルロが娘の子だとわかったのか、それは魔法学校に入る際のこと。
どれだけ偉大な魔女が育てた子だとしても、身元がわからないことには入れない。だから血を調べた。調べた結果、老夫婦の娘の子だと言うことが判明したのだ。
「調べて家族に連絡が入った、と言うことか?」
「いや、僕が魔法学校に勤めているんだ。今の校長が僕」
「さすがに捨てた子なのだから、あの娘には連絡しないわ。そんなことしたら、カルロ君が可哀想だもの」
老夫婦は娘のことを嫌ってはいないが、カルロが自分を捨てた親をよく思っていないと察して連絡は入れなかった。その代わり老夫婦が身元を保証。そのおかげで魔法学校に入学できたのだ。
その措置にカルロはとても感謝している。
「捨てられた子とはいえ、私たちの孫。大きくなった孫を見られて、私たちは嬉しかったの」
だから貴女にお礼。と上品に笑う。
「わざわさありがとう……。せっかくだ、カルロの送ってくれた写真や動画を見てほしい」
最初のうちは手紙だけだったが、魔法で作られた写真機を購入したため、今ではたくさんの映像が残っている。
「あら、いいの? 2人だけの秘密ではなくって?」
「カルロは気にしないはずだ」
老夫婦を家まで連れて、手紙含め、カルロから送られてきたものを見せた。老夫婦は感極まって大泣きし、アタナシアは泣き止ませるのにかなりの時間を消耗したのだった。
◇
老夫婦を送り、また日が経過した。
老夫婦からもらった紅茶を飲み、老夫婦からもらった菓子を食べ。こう口にする。
「もう誰も来ないだろう。なあ?」
答えない小鳥やドラゴン達に果物を与えながら、畑の出来栄えを眺める。
以前は暇なくらい時間があったと言うのに、最近は人がちらほらと森に訪れる。
やれお礼だの、やれ魔女を見に来ただの。アタナシアが何故こんな辺鄙なところに住んでいるのか気にしたことがないのかと思うほどの訪問率だ。
元凶はわかりきっていることだが、手紙で住所を教えるなと言っても、すでに教えてしまっているので無理だと返ってくるだけ。
「あまりにも酷いようならカルロに呪いをかけてやる……」
手紙を握りしめ、そう溢すアタナシアにドラゴンは頭に乗り、撫でるように手を振った。
慰めてくれている仕草を微笑ましく思いながら頭に乗るドラゴンを触る。
「お前はどのくらいのサイズになるんだ?」
「キュウ?」
頭からドラゴンを離し、目の前に置く。キラキラの目で見てくるドラゴンは、皆を恐怖させるほど強く逞しく育つ姿が想像できないほどに可愛かった。
「もしカルロが無断で帰って来たらお前に追っ払ってもらうからな」
だから、大きくなれよ。とドラゴンの頭をゆっくり撫でた。
ドラゴンは「キュウ」と応えるように鳴いた。
人との会話が久々だったアタナシアは疲れ切った表情を浮かべ頬を揉んだ。
「表情筋が死んでいる……」
ベッドへと倒れ込み、天井を眺める。
またこれから数年は誰かと話すこともないだろう。そう思いながらそのまま眠りについた――。
魔法公学校の生徒が来てから数日が経った。
アタナシアが2度寝しようかと迷っていると、小鳥が窓をコンコンと5回叩く。
森の中へ人が入ってきた合図だ。
魔法で知らせることも可能だが、小鳥が自分の仕事だと思っていて、毎度誰か来れば伝えに来る。
その度におやつを渡しているので、それ目当ても入っている。アタナシアもそれは察しているのでいつも多めに持たせていた。
また誰か来たのかと億劫に思いながらも、無視を決め込むことのできないアタナシア。
魔法でサクッと準備を整えてから、鏡に侵入者を映し出す。
そこには大きな荷物を抱えた老夫婦。
迷い込んだのか、アタナシアに会いに来たのか、夫婦の会話を聞こうと黙っていると、婦人は「こちらで合っているのかしら?」と小首を傾げた。
老人には優しく。そう教えられていたアタナシアは、すぐさま老夫婦の前に姿を現す。
「迷ったのか?」
言葉を飾らず挨拶もしないアタナシア。だが、老夫婦は気にしておらず柔らかな笑みを浮かべた。
「あらあら、美人さんだねぇ」
「君がカルロ君の育ての親かい?」
「まぁ、そうだな」
「やっぱり! 喋り方がそっくりねぇ」
「親がこれなら納得だなぁ」
笑い合う2人のペースにアタナシアは戸惑う。
老人に優しくしろと言われてはいるが、老人が得意というわけではないのだ。
むしろアタナシアはすでにこの2人よりも生きている。しかし、子供のような性格のまま育ち、今では何もかもが止まっているため、このマイペース具合は肌に合わないのだ。
「……カルロを知っているということは、私に用か?」
「ああ。君にお礼をしたくて来たのだ」
「お礼? カルロにではなく私に、か?」
「カルロはね、僕たちの娘の子だ」
「そうか」
老夫婦の娘はカルロを産んだ。
しかしアルビノであったカルロは、気持ち悪がられ、自分たちの子ではないとして捨てることにした。
そこで誰も寄りつかないこの森に捨て黙っていたのだ。
腹が大きくなり、子ができたから祝い金が欲しいとこれみよがしに強請る娘へ金を渡していた。
そろそろ生まれた頃だろうと楽しみに娘の家へと尋ねた老夫婦だったが、娘は「あれは私の子ではないから捨てた」と悪びれる様子もなく語っていたのだ。
どのようにカルロが娘の子だとわかったのか、それは魔法学校に入る際のこと。
どれだけ偉大な魔女が育てた子だとしても、身元がわからないことには入れない。だから血を調べた。調べた結果、老夫婦の娘の子だと言うことが判明したのだ。
「調べて家族に連絡が入った、と言うことか?」
「いや、僕が魔法学校に勤めているんだ。今の校長が僕」
「さすがに捨てた子なのだから、あの娘には連絡しないわ。そんなことしたら、カルロ君が可哀想だもの」
老夫婦は娘のことを嫌ってはいないが、カルロが自分を捨てた親をよく思っていないと察して連絡は入れなかった。その代わり老夫婦が身元を保証。そのおかげで魔法学校に入学できたのだ。
その措置にカルロはとても感謝している。
「捨てられた子とはいえ、私たちの孫。大きくなった孫を見られて、私たちは嬉しかったの」
だから貴女にお礼。と上品に笑う。
「わざわさありがとう……。せっかくだ、カルロの送ってくれた写真や動画を見てほしい」
最初のうちは手紙だけだったが、魔法で作られた写真機を購入したため、今ではたくさんの映像が残っている。
「あら、いいの? 2人だけの秘密ではなくって?」
「カルロは気にしないはずだ」
老夫婦を家まで連れて、手紙含め、カルロから送られてきたものを見せた。老夫婦は感極まって大泣きし、アタナシアは泣き止ませるのにかなりの時間を消耗したのだった。
◇
老夫婦を送り、また日が経過した。
老夫婦からもらった紅茶を飲み、老夫婦からもらった菓子を食べ。こう口にする。
「もう誰も来ないだろう。なあ?」
答えない小鳥やドラゴン達に果物を与えながら、畑の出来栄えを眺める。
以前は暇なくらい時間があったと言うのに、最近は人がちらほらと森に訪れる。
やれお礼だの、やれ魔女を見に来ただの。アタナシアが何故こんな辺鄙なところに住んでいるのか気にしたことがないのかと思うほどの訪問率だ。
元凶はわかりきっていることだが、手紙で住所を教えるなと言っても、すでに教えてしまっているので無理だと返ってくるだけ。
「あまりにも酷いようならカルロに呪いをかけてやる……」
手紙を握りしめ、そう溢すアタナシアにドラゴンは頭に乗り、撫でるように手を振った。
慰めてくれている仕草を微笑ましく思いながら頭に乗るドラゴンを触る。
「お前はどのくらいのサイズになるんだ?」
「キュウ?」
頭からドラゴンを離し、目の前に置く。キラキラの目で見てくるドラゴンは、皆を恐怖させるほど強く逞しく育つ姿が想像できないほどに可愛かった。
「もしカルロが無断で帰って来たらお前に追っ払ってもらうからな」
だから、大きくなれよ。とドラゴンの頭をゆっくり撫でた。
ドラゴンは「キュウ」と応えるように鳴いた。