不老不死の魔女を愛した男は、不老不死になるため引き継ぎ転生を繰り返す
4
今日、アタナシアは森を抜け街に出た。
魚肉ではなく鶏や豚、牛肉のためにやってきた。
アタナシア1人であれば肉などどうでも良い物だった。
しかし、今日はカルロがお祝いして欲しいと「肉料理が食べたい」と懇願するものだから、アタナシアは肉とにらめっこをしている。
どれが上等なのか食べ慣れていないアタナシアにはわからないから。
カルロが初めて引き継ぎ転生に成功した。いつもより踊っている筆跡があまりにも可笑しく愛おしいとアタナシアは思った。
「アタナシア!」
「そんなに慌てなくとも、私はどこにも行かないよ」
夕方になれば息を切らしてドアを大きく開け放ったカルロの姿。
恥じらいもなくアタナシアに駆け寄り、強く抱きしめた。
少ししてカルロが体を離したため、アタナシアは気が済んだのだろうと距離を置こうとした。
しかし肩を掴まれ、キスする勢いでカルロは顔を近づけてくる。
すかさずアタナシアは魔法で距離を取り、何事もなかったように食事を並べ、無言で椅子に座るよう促す。
「……アタナシアが作ってくれたのか?」
少々不服そうな顔をしつつも、カルロは食事の豪華さに口角があがる。
「もちろん。他に誰が作るんだ?」
「それもそうだな」
大きくなったカルロは、酒も嗜むようになっていた。度数の高いものも少量なら飲めると話す。
それが嬉しかったアタナシアは、倉庫の奥に置いていた酒瓶を持ってくる。
「私のお気に入りの酒を開けてやる」
「本当に? いいのか?」
「構わない。むしろいつ開けるか悩んでいたからちょうどいい」
軽快に酒を注ぎ、食事と一緒に楽しむ。
アタナシアが飲み干せばカルロも飲み干し酒の入れ合いを繰り返す。
酔って気持ちよくなってきたアタナシアは、以前訪れた老夫婦について口を滑らせた。
祖父母の話を聞き、間接的に自身の親がなぜ自分を捨てたのか知ったカルロ。
だが、怒りも悲しみも湧いて出ないのか、表情は変わらず。
「腹が立ったり、悲しかったりしないのか?」
「いや、むしろ感謝している。俺をこの森に捨ててくれてよかった」
柔らかく笑む姿は、今までに見たことのない穏やかな表情だった。
酒が進むにつれ、カルロは饒舌となった。
『試しに魔法学校に行ったが、レベルが低すぎてすぐに辞めてしまった。どれだけアタナシアが優秀な魔女なのかよくわかった』
他に、『皆最初は俺の容姿を見て不気味そうな顔でこちらを見るが、功績を上げるとすぐに媚びへつらってきて鬱陶しい』
などマイナスなことが多い。
だが、最後は楽しかったことやアタナシアに見せたいものなどを板に魔法をかけて写真や動画に収めていた。
それをじっくり眺めた後、アタナシアは写真を壁に飾り、動画はまとめてカルロが赤子の時に入っていた木箱に仕切りをし分類して入れた。
「また撮ってくる」
そう話すカルロを見ていると、外に出してよかったと安堵したのだった――。
話疲れたカルロは、机に突っ伏し規則正しい寝息を立てていた。
埃1つない部屋のベッドへとカルロを寝かせ、頭を撫でた。
その時に口から溢れた「アタナシア……好きだ」と言うカルロの言葉を無視して、アタナシアは静かに部屋を後にした。
「おやすみ。いい夢を――」
◇
カルロをまた追い出して数日。
カルロ宛に届く物が増えた頃、またしても森に入り込む。
今回の訪問者は気が立っているようで、森で迷ってもらうことにしたアタナシア。
盗み聞きをしたところ、カルロを手に入れるためにはここにいる魔女が邪魔なのだとはっきりと聞こえた。大きな独り言なものだ。
誰にとってアタナシアが邪魔であるかは大体見当はついている。
恋人希望かカルロの本当の親か。
どちらにせよアタナシアには面倒ごとでしかないのは確かだった。
話し合いで済むに越したことはないが、苛立っている姿を見る限り、あまり気持ちの良い取引となることはないだろうと確信した。
アタナシアは大きく溜息を吐いた。
「迷子か?」
「は? どこ!? どこにいるのよ!」
辺りを見渡す女は、苛立ちを隠さず声を荒げる。
「質問を質問で返すタイプか。……まぁ、いい。何しにここへ来た?」
「あんた、あの子を育てた魔女ね? あたしはあの子の母親よ。あの子を返してもらいに来たわ」
カルロはよく目立つ。だから放っておいても産みの親が存在を知ってこちらに来ることは想定していた。
意外と早かったな等と思いながら、アタナシア言う。
「返してもらいに……ね。生憎カルロはここにはいない」
「まずはここにあるあの子の荷物を持って帰りたいのよ」
アタナシアの家に持ってこられたものは、高価な物ばかり。金に困っていないアタナシアにとっては家の装飾品程度のものだが、金の欲しい人間にとっては宝の山だ。
カルロに興味を示さず荷物の受け取りの話をする辺り、ただ金が欲しいだけなのは一目瞭然だ。
「金の卵を産むガチョウが欲しいだけだろう?」
「ちが……いえ、どうせバレるわね。悪い? あたしの子なんだから別にどう扱ったって良いでしょう?」
「カルロはもう立派な大人だ。縛り付けることはできない」
「親には変わりないでしょう!? 親が子の持ち物をもらったっていいじゃない!」
「親権は剥離されているはずだが?」
「そんな嘘、信じないわよ」
「信じないのは勝手だが……、お前の親に聞いてみるといい。カルロの親だと認められたらカルロ宛の物を渡してやる」
「はぁ!? ちょっと、勝手に何を――」
時空の狭間を作りそこに女を放り入れる。
カルロの祖父がいる魔法学校の手前にでも置いておくか。とアタナシアは方角を整えて狭間を閉じた。
「カルロに話しておくべきか?」
自分に似ているため肉親にも容赦しなさそうなカルロを思い浮かべ、少しだけ女に同情しそうになったアタナシアだった。
魚肉ではなく鶏や豚、牛肉のためにやってきた。
アタナシア1人であれば肉などどうでも良い物だった。
しかし、今日はカルロがお祝いして欲しいと「肉料理が食べたい」と懇願するものだから、アタナシアは肉とにらめっこをしている。
どれが上等なのか食べ慣れていないアタナシアにはわからないから。
カルロが初めて引き継ぎ転生に成功した。いつもより踊っている筆跡があまりにも可笑しく愛おしいとアタナシアは思った。
「アタナシア!」
「そんなに慌てなくとも、私はどこにも行かないよ」
夕方になれば息を切らしてドアを大きく開け放ったカルロの姿。
恥じらいもなくアタナシアに駆け寄り、強く抱きしめた。
少ししてカルロが体を離したため、アタナシアは気が済んだのだろうと距離を置こうとした。
しかし肩を掴まれ、キスする勢いでカルロは顔を近づけてくる。
すかさずアタナシアは魔法で距離を取り、何事もなかったように食事を並べ、無言で椅子に座るよう促す。
「……アタナシアが作ってくれたのか?」
少々不服そうな顔をしつつも、カルロは食事の豪華さに口角があがる。
「もちろん。他に誰が作るんだ?」
「それもそうだな」
大きくなったカルロは、酒も嗜むようになっていた。度数の高いものも少量なら飲めると話す。
それが嬉しかったアタナシアは、倉庫の奥に置いていた酒瓶を持ってくる。
「私のお気に入りの酒を開けてやる」
「本当に? いいのか?」
「構わない。むしろいつ開けるか悩んでいたからちょうどいい」
軽快に酒を注ぎ、食事と一緒に楽しむ。
アタナシアが飲み干せばカルロも飲み干し酒の入れ合いを繰り返す。
酔って気持ちよくなってきたアタナシアは、以前訪れた老夫婦について口を滑らせた。
祖父母の話を聞き、間接的に自身の親がなぜ自分を捨てたのか知ったカルロ。
だが、怒りも悲しみも湧いて出ないのか、表情は変わらず。
「腹が立ったり、悲しかったりしないのか?」
「いや、むしろ感謝している。俺をこの森に捨ててくれてよかった」
柔らかく笑む姿は、今までに見たことのない穏やかな表情だった。
酒が進むにつれ、カルロは饒舌となった。
『試しに魔法学校に行ったが、レベルが低すぎてすぐに辞めてしまった。どれだけアタナシアが優秀な魔女なのかよくわかった』
他に、『皆最初は俺の容姿を見て不気味そうな顔でこちらを見るが、功績を上げるとすぐに媚びへつらってきて鬱陶しい』
などマイナスなことが多い。
だが、最後は楽しかったことやアタナシアに見せたいものなどを板に魔法をかけて写真や動画に収めていた。
それをじっくり眺めた後、アタナシアは写真を壁に飾り、動画はまとめてカルロが赤子の時に入っていた木箱に仕切りをし分類して入れた。
「また撮ってくる」
そう話すカルロを見ていると、外に出してよかったと安堵したのだった――。
話疲れたカルロは、机に突っ伏し規則正しい寝息を立てていた。
埃1つない部屋のベッドへとカルロを寝かせ、頭を撫でた。
その時に口から溢れた「アタナシア……好きだ」と言うカルロの言葉を無視して、アタナシアは静かに部屋を後にした。
「おやすみ。いい夢を――」
◇
カルロをまた追い出して数日。
カルロ宛に届く物が増えた頃、またしても森に入り込む。
今回の訪問者は気が立っているようで、森で迷ってもらうことにしたアタナシア。
盗み聞きをしたところ、カルロを手に入れるためにはここにいる魔女が邪魔なのだとはっきりと聞こえた。大きな独り言なものだ。
誰にとってアタナシアが邪魔であるかは大体見当はついている。
恋人希望かカルロの本当の親か。
どちらにせよアタナシアには面倒ごとでしかないのは確かだった。
話し合いで済むに越したことはないが、苛立っている姿を見る限り、あまり気持ちの良い取引となることはないだろうと確信した。
アタナシアは大きく溜息を吐いた。
「迷子か?」
「は? どこ!? どこにいるのよ!」
辺りを見渡す女は、苛立ちを隠さず声を荒げる。
「質問を質問で返すタイプか。……まぁ、いい。何しにここへ来た?」
「あんた、あの子を育てた魔女ね? あたしはあの子の母親よ。あの子を返してもらいに来たわ」
カルロはよく目立つ。だから放っておいても産みの親が存在を知ってこちらに来ることは想定していた。
意外と早かったな等と思いながら、アタナシア言う。
「返してもらいに……ね。生憎カルロはここにはいない」
「まずはここにあるあの子の荷物を持って帰りたいのよ」
アタナシアの家に持ってこられたものは、高価な物ばかり。金に困っていないアタナシアにとっては家の装飾品程度のものだが、金の欲しい人間にとっては宝の山だ。
カルロに興味を示さず荷物の受け取りの話をする辺り、ただ金が欲しいだけなのは一目瞭然だ。
「金の卵を産むガチョウが欲しいだけだろう?」
「ちが……いえ、どうせバレるわね。悪い? あたしの子なんだから別にどう扱ったって良いでしょう?」
「カルロはもう立派な大人だ。縛り付けることはできない」
「親には変わりないでしょう!? 親が子の持ち物をもらったっていいじゃない!」
「親権は剥離されているはずだが?」
「そんな嘘、信じないわよ」
「信じないのは勝手だが……、お前の親に聞いてみるといい。カルロの親だと認められたらカルロ宛の物を渡してやる」
「はぁ!? ちょっと、勝手に何を――」
時空の狭間を作りそこに女を放り入れる。
カルロの祖父がいる魔法学校の手前にでも置いておくか。とアタナシアは方角を整えて狭間を閉じた。
「カルロに話しておくべきか?」
自分に似ているため肉親にも容赦しなさそうなカルロを思い浮かべ、少しだけ女に同情しそうになったアタナシアだった。