白銀の子守唄 ~年下王太子の甘い執愛
「レーナ?」
「ええ、そう。わたくしはレーナよ。どうぞよろしく」

 マグダレーナが微笑んで頷いた時、いきなり小さな身体が抱きついてきた。さらに引き離されるのを恐れるように全力でしがみついてくる。

 女の子はそのまま声もなく再び泣き出した。

(この子は――)

 いったいどれほど悲しく恐ろしい目に遭ったというのだろう。まだ、ほんの小さな子どもなのに。

「まあ、たいへん。そんなに泣いたら、おめめが真っ赤になってしまうわ。いい子だから、もう泣かないで」

 会ったばかりで名前さえ知らなかったけれど、マグダレーナは泣きじゃくる女の子を抱き締め、震える背中を撫で続けた。

「大丈夫。心配しないで。わたくしが、いいえ、レーナがそばにいるわ。ああ、そうだ。おうたを歌ってあげましょうね」

 ――暗い夜空のお星様
   今宵もきらきら輝いて
   雪の野原を照らします
   お砂糖のような銀の国
   よい子が眠る銀の国
   お休みなさい、また明日――

 マグダレーナは小さな声で口ずさみ始めた。

 節回しは乳母が歌ってくれたものだが、歌詞はまばゆく輝く銀色の髪を見て思いついた。子守歌が気を静めてくれるかもしれないと思ったのだ。

 幸いなことに、次第にしゃくり上げる声は小さくなり、やがて女の子は泣き止んだ。
 まだ涙を浮かべているものの、マグダレーナの腕に抱かれたまま、つぶらな瞳で見上げてくる。

「おりこうさんね。それじゃ、わたくしと何かして遊びましょうか。お花を摘むのはどうかしら?」

 その時、大勢の話し声と足音が聞こえてきた。
 跪いて女の子を抱くマグダレーナの周りに何人もの女官が集ってくる。驚いたことに、その中には母の姿もあった。
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