白銀の子守唄 ~年下王太子の甘い執愛
 みな心配そうに眉を寄せ、思いもかけない名を口にした。

「フロリアン殿下!」
「お探しいたしましたわ、殿下!」
「ご無事で本当によかったですわ、フロリアン様」

 マグダレーナは大きく目を見開いた。

 フロリアンというのは今夜の宴の主役である王子の名前だった。だが年のころは同じかもしれないが、腕の中にいるのは女の子なのに――。

 驚愕するマグダレーナに、灰色の髪をした落ち着いた風貌の女性が声をかけてきた。

「はじめまして。レイネ侯爵閣下のお嬢様でいらっしゃいますね。私は女官長をしておりますヘッセンでございます。本日はフロリアン殿下のお相手をしてくださり、心から感謝申し上げます」

 マグダレーナが抱き締めていたのは、紛れもなくロンデネル王国のフロリアン王子だったのだ。

「あ、あの、ですが――」
「どうぞご安心くださいませ。後はわたくしどもが殿下をお世話いたします」

 後日わかったことだが、ロンデネルの王室では魔除けのために幼いころは男子でも女の子の恰好をさせる習わしがあり、フロリアンもまたそれに習っていたのだった。

「さあ、殿下。どうぞこちらへ」

 ところが小さな王子は女官長に背を向けて、いっそうマグダレーナにしがみついた。

「まあ、殿下」

 誰が、どれほどなだめすかしても、フロリアンは小さな手を離そうとせず、泣きながら「レーナ、レーナ」と繰り返す。

 ついには女官たちの方が根負けして、マグダレーナは十三歳という年齢にもかかわらず、その日から乳母のひとりとして王子に仕えることになった。

 その結果、母を失ってから笑うことも口をきくこともなく、夜にはぐずり続けてばかりいたフロリアンは少しずつ落ち着いていったのだった。
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