白銀の子守唄 ~年下王太子の甘い執愛
マグダレーナは王子の居室の隣に部屋を賜り、『小さな乳母姫』と呼ばれるようになった。
王子に絵本を読み、チェスの相手をし、散歩や乗馬に付き添って、夜には子守歌で寝かしつける。そうやってフロリアンの遊び相手を務めながら、王宮で貴婦人教育を受けることになったのだ。
宮廷生活は本来決まりごとが多く、何かとかた苦しくて気苦労なものだ。それでも毎日が意外なほど楽しかったのは、侯爵令嬢という身分と、十三という年齢が味方してくれたからかもしれない。
フロリアンは素直でかわいらしく、一途に慕ってくれたし、女官長のヘッセン夫人をはじめ周囲の誰もが優しく接してくれた。
長い年月の間には予期せぬ問題が起き、深刻な事態に陥ったこともあったが、それでもマグダレーナはしあわせだった。いつの間にか彼女にとっても、フロリアンはかけがえのない存在になっていたのだ。
けれどもやがて王子が十代になり、他国からの縁談が次々と舞い込み始めた時、幸福で美しい日々は唐突に終わりを告げた。
成長した王子には、もはや乳母など必要ない。
王宮を去る時、マグダレーナは二十三歳になっていた。