白銀の子守唄 ~年下王太子の甘い執愛

第三章

 燭台の明かりが揺らめく部屋で、マグダレーナは小さくため息をついた。

 夜もふけ、辺りは静まり返っている。不眠を訴える王太子に請われて再び王宮で暮らすようになり、早くも一週間が過ぎようとしていた。

 ヘッセン夫人はあいかわらず女官長としてかいがいしく采配を振るっており、マグダレーナは誰からも歓迎され、賓客として扱われている。

 それなのに日を追うごとに気持ちが揺れて、途方に暮れるばかりだった。

 ――おうたを歌って、レーナ。

 かつて小さなフロリアンはそう言いながら、よく膝に上がってきたものだ。マグダレーナはそのたびに笑顔で頷き、輝く銀色の髪を撫でながら、園庭で聞かせた子守唄を歌った。

 ――くらいよぞらのおほしさまあ。

 フロリアンも声を合わせて歌い、いつもほどなく眠りについた。

 そして今、成長したフロリアンは不眠に悩まされていて、マグダレーナに救いを求めてきた。

 部屋も当時のまま隣り合っているので、王太子は毎夜子守歌を聴きに来ており、そろそろ姿を見せる時刻だった。

 フロリアンは、マグダレーナの歌は侍医に処方された薬より効き目があると感謝してくれていた。銀色に輝く雪の国の子守歌を聴くと、嘘のようによく眠れるのだと。

 実際、再会した時に気づいた目の下の黒ずみはすっかりなくなっていた。

(だけど……)

 マグダレーナは視線を落として、再びため息をつく。

 ――僕、レーナのお部屋で寝る。そうすれば、何回もおうたが聴けるもの。

 マグダレーナが座っている寝台で、かつては二人寄り添って休むことも珍しくなかった。

 大人ばかりに囲まれていたせいか、フロリアンはマグダレーナによく懐き、時間が許す限りそばを離れようとしなかった。一方のマグダレーナも彼を実の弟のようにかわいがった。

 そう、愛すべき大切な弟だったのだ……あのころは。
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