白銀の子守唄 ~年下王太子の甘い執愛
「どうかしているわ、本当に」

 よけいなことに気を取られてはいけない。以前そうしていたように、今もフロリアンを支えることだけ考えればいいのだ。

「わたくしは……殿下をお助けするためにここにいるのだもの」

 マグダレーナはかぶりを振って、寝衣の襟をかき合わせた。

 白い寝衣は透けるような絹のレース地で、ほの暗い明かりでも身体の線が見えてしまいそうな気がする。子守歌を聴くため、王太子がこの部屋を訪れるたびにいたたまれなくなるくらいだ。

 それでも何の意味もないと、マグダレーナは繰り返し自分に言い聞かせた。

 たとえ十八になったフロリアンを見て、不思議なくらい心がざわめいても。その声を聞き、そばに近づくとどうしようもなく鼓動が速まってしまうとしても。

 美貌なだけでなく文武に秀でた王太子は国中の、いや、近隣諸国の間でも女性たちの憧れの的だ。自分も同じように反応してもしかたないだろう。

 さらには九歳も年上で、行き遅れた挙句、もはや修道院へ行くしかないと思い詰めたようなマグダレーナがどんな格好をしていようと、フロリアンにとってはどうでもいいことだ。彼が必要としているのは、あくまで安らかな睡眠を与えてくれる存在なのだから。

 大人になったフロリアンは、いずれどこかのかわいらしい姫君と結ばれるはずなのだ。

(あれこれ思い悩むのは、もうやめなければ)

 その時、ろうそくの炎が揺らめき、扉がきしむ音がした。フロリアンが部屋に入ってきたのだ。

「やあ、レーナ」

 努めて冷静でいようとしているのに、その声を聞いただけでマグダレーナの心臓が跳ね上がった。
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