白銀の子守唄 ~年下王太子の甘い執愛
  あまりに率直に責められて、マグダレーナは返す言葉を失ってしまう。フロリアンの声がひどく恨みがましく響いたのだ。

「それとも僕のことなど考えもしなかった?」
「いいえ、殿下。ですが今のままでは家族に迷惑をかけてしまいますから」
「迷惑?」
「ええ、特に兄に」

 二十三で城を去った時、マグダレーナには結婚の申し込みが殺到した。

 ガーデベルク家は古くからの名家であり、父のレイネ侯爵は有力貴族で財産もある。
 加えて王都一と言われた美貌の令嬢だ。少しばかり適齢期を過ぎてはいたが、王宮勤めだったのだからいたしかたない。
 花婿候補は次々と現れた。

 ほどなくマグダレーナは相応の相手と婚約したが、なぜかひと月もしないうちに破談になってしまった。相手側の問題という理由だったが、それから似たようなことが四度も繰り返された。

 一方でマグダレーナにも、破談の原因に思い当たる節があった。

 ロンデネルの娘なら誰もが持つ魔力――それがほとんど使えなくなってしまったのだ。

 王城にいる時、とある理由で一気に力が弱まり、以来もとに戻ることはなかったが、マグダレーナ自身はそれを悔やんだことはない。

 しかしそのうち縁談はパッタリ途絶え、心ない噂も広まって、二歳年上の兄の結婚までなかなか決まらないまま月日が過ぎていった。

 家族は誰も責めなかったが、マグダレーナはいたたまれなくなった。

(このままではいけないわ)

 これ以上、周囲に迷惑はかけられない。兄のためにも自分は修道院へ行って、祈りの日々を送るべきなのだ。

 そうすれば、きっとすべてがうまくいく――そしてあの日、マグダレーナは家を出た。
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