白銀の子守唄 ~年下王太子の甘い執愛
「修道院に向かったのは、そういう理由です。すべてわたくしが悪いのですわ」

 問われるままフロリアンに顛末を打ち明けると、マグダレーナは頬を染めて俯いた。

 はじめから相手にされないとわかっていても、やはり伝えたい内容ではない。聞かされた相手だって返答に困ってしまう話だった。

 ところが、

「かわいそうなレーナ」

 次の瞬間には身体を引き寄せられていた。フロリアンの胸に倒れ込むような形になり、マグダレーナは目をしばたたく。

「だが今、君はこうして僕の腕の中にいる」
「殿下、いったい――う、ん!」

 反射的に上げた顔に影が差した。と思う間もなく、優しく唇を塞がれてしまう。

「ん、う、んん――」

 抗おうとしても無駄だった。
 王太子の腕の力は緩まず、息が止まりそうなほど強く抱き締められる。そのくせ唇へ落とされるキスは羽で撫でるように優しく繊細だった。

「レーナ、レーナ、もう何も心配しないで」

 フロリアンは金茶色の髪を梳きながら、熱に浮かされたように名前を呼んでは、唇を合わせ続ける。

 どうしてフロリアンは自分などに接吻しているのだろう?
 九歳も年上で、ほとんど魔力もなく、破談ばかり繰り返された悲しい女なのに。それともいっそ憐れんでくれているのだろうか?

 口中を探り、柔らかく舌を絡め、フロリアンのキスはマグダレーナを優しく翻弄する。二十七にもなるのに、誰かにこんなことをされたのは初めてだった。

「心配しないで。これからは僕がレーナを守る」

 まったく状況が理解できないまま、いつしかマグダレーナもたくましい背に腕を回し、熱い口づけに応え始めていた。


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