白銀の子守唄 ~年下王太子の甘い執愛
 あまりのことに呆然と立ち尽くすマグダレーナに向かって、矢継ぎ早に言葉が重ねられた。

「何も心配することはない。今度こそうまくいくはずだ」

 相手は近衛隊の隊長を務める三十五歳の伯爵で、再婚ではあるものの申し分ない相手だという。

「しかもロンデネルでも一、二を争う剣の使い手だ。なにしろ王太子殿下の指導もされているくらいだからな」

 父はなぜか勝ち誇ったように笑うと、またも早く支度するようにと急かした。フロリアンが戻ってくる前に娘を連れ出そうとしているのだろう。

「……かしこまりました」

 マグダレーナは頷いて立ち上がった。

 これでいい。いや、王太子のためにもっと早くこうするべきだったのだ。救いの手を差し伸べてくれた父に感謝しなければ。

 しかしその時、いきなり扉が大きく開け放たれた。

「ご歓談中、失礼する」

 白銀を思わせる髪、強い光をたたえた宝玉の瞳――そこには、まさに父が出し抜こうとしていた王太子が笑顔で立っていた。教練に行くと言っていたとおり、凛々しい紺色の軍服姿だった。

「これはガーデベルク殿、お久しぶりです」
「お、王太子殿下、お留守に伺い、たいへん申しわけございません。本日はごきげん麗しゅう――」
「マグダレーナにはたいへんお世話になっております。ちょうど侯爵にお礼を申し上げねばと思っていたところです。おかげで僕の不眠もすっかりよくなりました」
「それはまことに喜ばしいことですな」

 王太子の微笑に励まされたのか、うろたえていた侯爵は「実は娘の結婚が決まりまして」と胸を張った。

「お相手は殿下もご存じのネッテル伯です。人品骨柄申し分なく、殿下にもご祝福いただけるものと存じて――」
「もちろんですとも。ただしネッテルが私に勝てたら、の話ですが」

 フロリアンは不敵に笑いながら、「これまでのように」とつけ加えた。
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