白銀の子守唄 ~年下王太子の甘い執愛
 これまでのように――とはどういう意味だろう?

 マグダレーナが目をしばたたくと、フロリアンは姿勢を正して侯爵に言い放った。

「あなたがレーナとの結婚をなかなか許してくださらないのはしかたがない。しかしすでに何度も申し上げたように、私を倒せない男にレーナを渡すつもりはありません」

 勢いに圧倒されたように侯爵の声が上ずった。

「だ、だがネッテル伯はあなたの師ではありませんか。それでも剣を合わせるとおっしゃるので?」
「もちろんネッテルも承知です。レーナを守るために私がずっと修練してきたことは、彼が誰より知っていますから」

 レーナを守る――そのひとことがしきりにマグダレーナの記憶を揺さぶった。

 ――レーナは僕が守る。ずっとずっと僕が守るんだ。

 少し舌足らずの、だが懸命な口調。そう約束してくれたのは幼い日のフロリアンだった。

 何年も前、お忍びで王都の隣の村に遊びに行った時のことだ。
 王子の一行とは知らない村の子どもたちに絡まれて、いたずらを止めようとしたマグダレーナが転んで怪我をした。

 傷はたいしたことはなかったが、フロリアンは真っ青になってマグダレーナに謝った。

 ――ごめんなさい! ごめんなさい、レーナ。僕がついていたのに。

 もとよりかなうはずもないのに、相手を排せず、マグダレーナを守れなかった自分を許せなかったのだろう。フロリアンは繰り返し誓った。

 ――僕、強くなる。誰よりも強くなって、レーナを守るから。

 どちらかといえばひ弱で、少し泣き虫だったフロリアンが変わり始めたのはそれからだった。

 自分を倒せない相手にマグダレーナを渡すつもりはない。では、これまで何度も破談が繰り返されてきたのはまさか――?

 思わず父と王太子を見比べると、侯爵はうろたえて目を反らしたが、フロリアンは大きく頷いて、マグダレーナの視線をしっかり受け止めたのだった。
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