白銀の子守唄 ~年下王太子の甘い執愛
 王太子とネッテル伯の決闘は、その日のうちに行われた。

 場所は王宮内の修練場で、それと知っているのは当人同士と立ち会ったマグダレーナ、そして父の侯爵だけだった。

 決闘とはいえ王太子と近衛隊長なのだから、もちろん命まで賭けるわけではない。
 とはいえ剣を握った二人は師弟の間柄にもかかわらず、凄まじい気迫で向き合っていた。

 フロリアンが武芸にも秀でているのは構えからも見て取れるが、一方のネッテル伯もまた三十代半ばなのに、体つきも動きも若々しい。

 静かな修練場に激しい息遣いと足音、さらに鋭い剣戟が響き渡る。火花を散らし、命を削るような戦いにはまったく終わりが見えなかった。

(フロリアン様――)

 国で一二を争う剣の使い手と父が評したネッテル伯、そしてその薫陶を何年も一身に受けてきたフロリアン――二人にはほとんど優劣の差がない上、この戦いにはマグダレーナとの結婚がかかっている。
 打ち合いが果てしなく続くのは当然だった。

 まるで辻褄を合わせるように縁談を持ちかけられたネッテルも、もちろん王太子の一途な恋心を知っている。だからこそ臣下として、それ以上に剣の師として、真摯に戦っているのだろう。

(神様、どうか殿下をお守りください)

 このままではどちらかが大怪我をするかもしれない。

 息をつめるようにして見ていたマグダレーナは、ただフロリアンの無事だけを祈った。

(わたくしは誰と結婚してもかまいません。ですからどうか殿下を――)

 ずっと昔、神に同じような祈りを捧げたことがある。
 願いは聞き届けられ、その結果としてマグダレーナは大きな代償を支払った。

 しかしたとえ命を失うとしても、やはりフロリアンのために祈らずにはいられなかった。
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