白銀の子守唄 ~年下王太子の甘い執愛
 ふだんは元気で機嫌のいいフロリアンに異変が起きたのは、マグダレーナが王宮に来て三年目のことだ。

 ちょうど七歳になったばかりで、そろそろいたずらもし始め、周囲をよく笑わせていたのに、その朝はほとんど話そうともしなかった。

「フロリアン様、どうかされましたか?」
「……ううん」

 きっと心配をかけたくなかったのだろう。けなげに首を振ってみせたものの、いつもより頬は赤く、その様子は明らかにおかしかった。

「失礼しますね」

 前髪をかき上げ、額に手を当てたマグダレーナは小さく悲鳴を上げた。まるで焼けるように熱かったのだ。

「たいへんだわ!」

 すぐに女官長のヘッセン夫人に知らせ、侍医も駆けつけてきた。

 フロリアンは寝室へ運ばれ、さまざまな処置が始まった。
 周囲の慌ただしい様子に驚いたのか、やがてぐずり始め、泣き声も聞こえてきたが、マグダレーナはどうずることもできない。

「おそらくお風邪を召されたのでしょう。薬湯を呑んで、ゆっくりお休みになれば、すぐに元気になられますよ」

 誰もが侍医の診断に安堵したが、実際にはフロリアンの病状はどんどん悪化していった。

 いっこうに熱が下がらず、食事どころか水さえ受けつけず、やがて意識も混濁するようになってしまったのだ。

「殿下、しっかりなさいませ」
「フロリアン様、お気を確かに」

 さまざまな治療が試みられ、女官長はじめ、お付きの者が交代で看病し、国王も何度も姿を見せたが、回復のきざしは見られなかった。
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