白銀の子守唄 ~年下王太子の甘い執愛

終章

 ロンデネル城の庭園はいつも美しいが、とりわけ輝いて見えるのはやはり初夏だろう。

 この季節の散策を、マグダレーナは何よりも愛していた。

 かつて十三歳の少女だった時に訪れ、小さなフロリアンと出会ったその場所へ、今は赤ん坊を抱いて向かっている。腕の中で半ば眠りかけているのは、もうすぐ一歳になる王子のレオポルドだ。

 そして少し先を歩いているのは――。

「早く! 母上しゃま!」
「見て、母上しゃま。きれいなお花がいっぱい!」

 咲き誇る花の前で揃いの白いドレス姿ではしゃいでいるのが、三歳の双子であるフレデリクとアンナ・マリアだった。

 兄のフレデリクは男子だが、かつてフロリアンがそうだったように魔除けの風習で女の子の格好をさせられている。

 三人の子たちはみな父親似で、輝く銀髪と翡翠のような瞳を受け継いでいた。

「こら。そんなにはしゃぐと転んでしまうぞ」

 仔犬のように駆け回る双子を追いかけていたフロリアンが振り向いた。

「代わるよ、レーナ。レオポルドは重いだろう?」
「ありがとう、フロリアン」

 マグダレーナが赤ん坊を手渡すと、フロリアンは大切そうに受け取った。それから妻に、続いて腕の中のレオポルドにキスを落とす。

 すると、それを見ていた双子がマグダレーナのもとに駆け寄ってきた。

「母上しゃま、手をつないで」
「僕も!」
「ずるいぞ。私だって母上と手をつなぎたいのに」

 おどけてみせるフロリアンを囲み、子どもたちの笑い声が上がる。

 レオポルドも目を覚まし、何もわからないはずなのに声を上げて笑った。

 双子と手をつないで歩きながら、マグダレーナはしおれかけている白薔薇に微笑みかける。すると、たちまち咲き始めのように可憐な姿を取り戻した。

 消えかけていた魔力が再び戻ってきたのだ。
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