白銀の子守唄 ~年下王太子の甘い執愛
(助けて……誰か)

 このままではかどわかされてしまう。

 すぐに布は取り去られたが、手足に力が入らず、声を出すこともできない。何か薬をしみ込ませてあったのだろう。

 身体がふわりと浮いて、黒ずくめの男に抱きかかえられたとわかったが、もはやどうしようもなかった。

(いや……離して)

 目の前がどんどん暗くなっていく。薄れていく意識の中、マグダレーナはふと自分を呼ぶ声を聞いた。

「マグダレーナ……レーナ」

 レーナ――自分をそんなふうに呼ぶ相手はひとりしかいない。出会った時はまだ幼くて、うまく名前を発音できなかったためだが、以前は誰よりも近しい間柄だった少年だ。

(まさか?)

 マグダレーナは力なく首を振った。

(いいえ、違うわ)

 身を預けている胸板はしっかりと厚く、あたたかくて、規則正しい鼓動が聞こえてくる。黒ずくめの男はなぜか泣きたくなるほどなつかしい気配をまとっていた。

「レーナ、僕のレーナ」

 優しい囁きは羽のように耳をくすぐり続ける。

 再会などありえないのに。あの方との縁はとうの昔に切れているのに。

(どういう……こと?)

 恐怖と混乱の渦に巻き込まれ、マグダレーナは怯えながら闇の中へと落ちていった。



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