白銀の子守唄 ~年下王太子の甘い執愛

「目が覚めたんだね、レーナ?」

 マグダレーナは目を見開いて凍りついた。

 たとえ視界に入っていなくても、声の主が誰なのかはっきりわかったのだ。最後に聞いた時よりも低くて、ずっと落ち着いた響きではあったけれど――。

「まさか」

 唇が震え、吐息のような声が零れ落ちる。

「フロリアン様、い、いえ、王太子……殿下?」

 足音がゆっくり近づいてきたかと思うと、天蓋が大きく開かれた。

「そうだよ、レーナ」

 そこにはまばゆい銀色の髪をした長身の若者が立っていた。
 瞳はエメラルドを思わせる深い緑色で、彫像のように整った面差しだが、はにかんだ笑顔が初々しい。今、その頬はわずかに赤くなっていた。

 この国の王太子で、十八歳になったばかりのフロリアン・ヨーゼフ・フォン・ロンデネルだった。

「本当に久しぶりだ。もう四年になるかな」
「は、はい。さようでございます」

 実を言えば、マグダレーナ自身は彼が王子から王太子になったことを知っていたし、遠くから何度か見かけたこともある。そのたびに凛々しく、たくましく成長していく姿に驚かされていた。

 それにしてもいったい何が起きたというのだろう? 
 俗世を捨てて修道院の扉を叩こうとしていたのに、今は次期国王と共に王宮にいる――その事実に、マグダレーナは混乱しきっていた。

「また会えて本当にうれしい。レーナは……少しも変わっていないね」

 もちろんそんなはずはない。幼いフロリアンが稀有な美青年へと成長しつつある一方で、九歳年上のマグダレーナは婚期を逃すような年齢になっているのだから。
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