白銀の子守唄 ~年下王太子の甘い執愛
(……わたくしったら)

 マグダレーナは唇を引き結んだ。
 世間知らずの娘でもあるまいし、再会の喜びに酔って、いつまでもぼんやりしているわけにはいかない。

「殿下、どうぞご無礼をお許しくださいませ」

 平服で王宮を訪れることさえ許されないのに、あろうことかその一室で眠り込んでいたのだ。数年前までは自室だったとはいえ、ありえない失態だった。

 マグダレーナは急いで寝台から下りようとしたが、すぐにフロリアンから押しとどめられた。

「いけない、レーナ。まだ休んでいなければ」

 実際まだ身体がふらついて、まともに立つことさえできそうにない。それに王太子から「レーナ」と呼ばれるたびに、胸に奇妙なざわめきが走った。

 けれどもなんとかして状況を把握しなければならなかった。

 なぜ家や身分を捨てようとしたかをここで話す必要はない。マグダレーナは言葉を選びながら問いかけた。

「恐れ入ります、殿下。あの、わたくしはどうしてここにおりますのでしょう? たしか修道院への道中で賊に襲われたはずなのですが」
「ああ、それは――」

 秀麗な笑顔がわずかに強ばり、王太子の鼻先に少しシワが寄る。それは幼い時から彼が困惑した時の癖だった。

(えっ?)

 昔はそんな姿に笑みを誘われたものだが、マグダレーナは恐ろしい予感に震えた。

 自分をさらった男は名前も身分も知っていたし、その腕に抱き取られた時にはどういうわけかひどくなつかしい気配を感じた。そんな状況では到底なかったはずなのに。
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