エリート警視正は愛しい花と愛の証を二度と離さない
「……ちょ、柚希?」

「まーそうか、大輝がいたらなかなかそういう雰囲気にはならないかー」

 にんまりしながら勝手に納得する柚希に弱弱しく反論する。

「……そもそも手を出されるとかそういう以前の問題なのよ」

 手は出されていない。しかし、手を握られ頬を撫でられたあの夜から瞬は熱の籠った視線で佳純を見つめる瞬間が増えた……気がする。

 元々女磨きをしてきたわけではないが、大輝が生まれてからは特に育児と仕事に振り回され、おしゃれやお肌の手入れなどに費やす時間などほとんどない。女性としての魅力は皆無なのに、彼を前にすると、まんまと胸をときめかしてしまう。

 もう、自分の心はわかっている。でもそれに向き合ってはいけないと思っている。

「どんなにあがいても、住む世界が違うのよ」

 佳純はポツリと言葉を落とす。

 今、結婚していなくたって瞬は近い将来彼にふさわしい女性と結ばれるべきだ。犯罪者を親族にもつ自分は彼の足かせにしかならない。その事実は四年前から何ら変わっていないのだから。

「別にあがいてもいいと思うけどね」

 柚希の声が突然真剣なトーンに変わり、佳純は目を瞬かせた。

「えっ?」
< 122 / 233 >

この作品をシェア

pagetop