エリート警視正は愛しい花と愛の証を二度と離さない
(熱なんて出している場合じゃないのに。家に帰ったら、大輝をお風呂に入れてご飯食べさせて一緒に寝ちゃおう。大丈夫、明日にはきっと良くなる)

 靄がかかったような頭の中で、必死に帰宅した後の段取りを考える。

(私が倒れでもしたら、この子が困るんだから……しっかりしなきゃ)

 大輝の手を握りなおしたとき、遠くの方で自分を呼ぶ声がした気がした。

「佳純!」

 ゆっくり声をした方に首を動かすと、スーツ姿の長身の男性がこちらに駆け寄ってくるのが見えた。

「鮫島さん……?」

 瞬だと認識した途端、佳純の体から力が抜ける。

「ふらついているようだが、大丈夫か?」

 瞬は佳純を支えるように立った。

「ママ、おててあったかいの」

「あったかい?」

 佳純の額に手を当てた瞬は目を見開いた。

「熱があるじゃないか!」

「やっぱり、ありますか……」

 佳純は弱弱しく応える。

「すぐに車乗って。あそこまで歩けるか?」

 瞬の促した先の路肩に見覚えのある車がハザードを出して停まっていた。付き添われ後部座席に乗り込むと、あのときのチャイルドシートが付いたままだった。
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