エリート警視正は愛しい花と愛の証を二度と離さない
 大輝を車から降ろしながら瞬は表情を曇らせた。

「そんな状態で、ひとりでなんとかしようとしてるのか?」

 やるせなさが混じったような声色に、佳純はひどく困惑する。

「鮫島さん?」

「辛いときくらい頼ってくれ。大輝君の世話は俺がする」

「そ、そんなこと」

 させるわけにはいかないという言葉が出る前に、瞬はこちらに背中を向けてしゃがんだ。

「ほら、ふらついたら大変だ。部屋までおぶっていく」

「えっ、でも……」

「いいから早く」

 有無を言わさない勢いだ。いつもの佳純だったら絶対に遠慮していただろう。しかし熱で判断能力が鈍っているのだろうか、引き寄せられるように彼の肩に手をかけた。

 瞬は佳純を背負うと軽々と立ち上がり、大輝を伴ってアパートの入り口に進む。

「ママ、おんぶ?」

 階段を上る大輝を後ろから見守りながら瞬は優しく話しかけた。

「そう。ママお熱で辛いんだ。お家に帰ったら静かに寝かせてあげよう。大輝君、どのドアから入ればいいか教えてくれるか?」

「おしえてあげる!」

 大輝のはりきる声が聞こえる。広い背中に全身を預けながら、佳純は泣きたいほどの安心感を覚えていた。
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