エリート警視正は愛しい花と愛の証を二度と離さない
「もう十歳になったはずだ。こっちに帰ってきてからまだ会えてないな」

 柔らかい表情の瞬を前に佳純も自然と表情が緩む。

(瞬さんと緊張しないで普通のお話しするの、いつぶりだろう)

 衝撃の再会から約二か月、佳純は瞬に接するときは常に気を張っていた。彼の存在は自分たちにとって受け入れがたいものだと思っていたから。いや、そう思いたかったのだ。

『自分の気持ちに正直になってみっともなくあがいたっていいんじゃないの』

 柚希の言葉が脳裏に浮かぶ。

(でも、私は四年前、あがくのが怖くて逃げた……いまさら正直になってもいいの?)

「まだだるいだろう。横になって」

 いつの間にか空になっていたコップを佳純の手から受け取り、瞬は優しい声で促す。布団に戻ると掛布団を丁寧に整えてくれた。

「鮫島さん、今日お仕事ですよね」

「もう少ししたら行くよ。自宅で着替えて出勤する。なにかあったらすぐに連絡してくれ。鍵は掛けて出るから気にせずこのまま眠っていて。今夜も早めに様子を見に来るから」

「……何から何まですみません」
 恐縮して布団の中で縮こまる。すると瞬の指先が佳純の頭に触れ、髪を整えるように動いた。
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