エリート警視正は愛しい花と愛の証を二度と離さない
“警察官は人に寄り添う仕事”それが彼の口癖で努力を厭わなかった。瞬がエリート幹部候補であろうと遠慮も容赦もなくしごかれた。逆にそれがありがたく、瞬はすべてこなし食らいついた。捜査会議で激しく言い合いになることも珍しくなかった。
 そんな瞬に田端に付けたあだ名が『人食い鮫』だ。
 
 一方、田端は仕事を離れると家族を愛する普通の父親で、気さくで話しやすかった。よく自宅に招いてくれ、夫人の作った夕食をごちそうになった。

 お互い部署が変わっても親交は続き、田端への親愛と尊敬の念は変わっていなかった。
 
 しかし、彼は定年間近に病に倒れ、亡くなってしまった。
 上司部下階級関係なく、たくさんの人に尊敬され慕われる警察官だった。

(見舞いに行くと『俺の顔を見る暇があるなら仕事をしろ』といつも追い出されてたから、こうして毎月墓参りにくるなんて怒られてしまうかもしれないな)

 それでも、月に一度の墓参りは警察官としての初心を思い出させてくれる大事な時間だった。

 初めて佳純を見たのは、霊園に向かう道すがらたまたま寄った花屋、フローリスト・デ・パールだった。

「いらっしゃいませ!」
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