エリート警視正は愛しい花と愛の証を二度と離さない
 瞬に別れを告げたあのとき、がらんどうのアパートの部屋で佳純はひとり涙を流した。
 お腹にいた大輝に約束したとおり、それからどんなに辛くても不安でも佳純は泣かなかった。

 それなのに、一度流れ始めた涙は壊れてしまった蛇口のように溢れ続ける。

「ごめ、ごめんなさい、汚れちゃう」

 瞬のシャツを汚すわけにはいかないと体を離そうとしたが、逆に強く抱き込まれた。

「好きなだけ泣いていい。今までの分ぜんぶ」

「……っ、うっ……」

 しばらく涙は止まってくれそうもない。佳純は瞬の背中に手を伸ばしギュッとしがみつく。

 目を覚ました大輝が泣き声を上げるまで、佳純は瞬の逞しい胸の中で彼のシャツを濡らし続けるのだった。
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