エリート警視正は愛しい花と愛の証を二度と離さない
 悦子は言葉を詰まらせ、両手で顔を覆いしくしくと泣き始めてしまった。その姿を見て佳純の胸も締め付けられる。

「悦子さん、おじさん、私、ずっとお世話になってきたのに何もお返しできなくて……」

 声を震わす佳純に、柚希の父は穏やかな顔で言った。

「僕たちは勝手に君の両親の代わりなったつもりでいて、佳純ちゃんや大輝を娘と孫みたいに思っていたんだ。心配できる相手がいるのは幸せだったし、一生懸命な佳純ちゃんだからお節介をしたくなった。それだけだ」

「そうよ。だから気にせずに佳純ちゃんは自分の幸せを考えて。たまには大輝くんの顔を見せてくれると嬉しいわ」

 悦子は泣き笑いの顔になっている。

「はい、もちろん連れてきます。大輝も喜びます」

 ありがとうでは言い表せない気持ちを持て余しながら、佳純は目を潤ませる。

 すると、佳純に笑いかけていた柚希の父の顔が急に硬くなる。

「で、鮫島さん。きちんと籍はいれるんだろうな」

「はい、少しでも早くと考えています」

 柚希の父の鋭い言葉に瞬は淀みなく答えた。
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