エリート警視正は愛しい花と愛の証を二度と離さない
エピローグ
「おー鮫島、もうお帰りか」

 鞄とコートを手に廊下を歩いていると、同期がゆるく声をかけてきた。

「ああ、お疲れ。悪いがお前と世間話をしている暇はないぞ」

 例によって波多野は横並びで付いてきたが、瞬は速度を変えずにエレベーターホールへ進む。

「一刻も早く帰りたいって顔して。人食い鮫も奥さんには形なしだな。あー温かい家庭があるお前が羨ましいよ。俺なんて一日中むさ苦しい二課の男連中にもみくちゃにされて、疲れて帰ってもひとりなんだよ。かわいそうだろう?」

 わざとらしくさめざめと泣くふりをしている波多野。難しい事件が続き疲れているのだろう。瞬は軽く溜息をついた。

「お前もさっさと結婚すればいいだろう」

「忙しすぎて彼女を作る暇がないんだよ。そんなこと言うならだれか紹介してくれよ」

 その言葉に瞬はぴたりと足を止めた。イケメン警察官を紹介してくれと言った佳純の親友の顔が頭に浮かんだからだ。「急にどうした?」と驚いている同期の顔をまじまじと見る。

「まあ、イケメンといえなくもないか」

「え、どういうこと? もしかして、心当たりの女性がいたり?」

 波多野はパッと表情を明るくする。

「……いない」
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