エリート警視正は愛しい花と愛の証を二度と離さない
 瞬はハンドルを切り、小さなフラワーショップの前で車を停める。

 そろそろキッチンカウンターに飾ってある一輪挿しの花が萎れるころだと思い出したからだ。

 再会後佳純のアパートに通っていたころ、瞬は彼女に花を贈り続けた。花束では負担になると考え一輪だけ。
 『花を見て機嫌が悪くなる人はいない。一輪あるだけで人の心を和ませられる』と言っていた佳純の父にあやかりたいのもあったが、花が咲いている間は瞬の存在も感じてもらえるのではという思いもあった。

 結婚した今も、花屋を目にすると佳純のために買って帰りたくなる。

 店内で瞬は妻の顔を思い浮かべながら一輪の花を選んだ。この店は何度か来ているので店員も慣れたものだ。

(田端さんの墓参りのため立ち寄った花屋で佳純と出会い、今は佳純のためにこうして花を選んでいる。不思議な感覚だな)

 佳純の元職場だったフローリスト・デ・パールは今も変わらず営業しており店長も変わっていないようだ。
 佳純は突然辞めてしまったのを今でも申し訳なく思っているようなので、近々大輝を含めた三人で挨拶にいくつもりでいる。

(無理のない範囲で仕事を再開してもらっても構わないしな)
< 231 / 233 >

この作品をシェア

pagetop